« “自分”の子という認識はいつから?? | トップページ | 人間に残された本能 »

2012年12月26日 (水)

死の戦略

死の意味を深く考えさせる代表例として細胞性粘菌を取り上げたいと思います。細胞性粘菌は、土壌アメーバですが、一般にはその生涯は、胞子→アメーバ(バクテリアを食べます。単細胞で生きています)→<餌がない>→移動体(細胞集合体)→累積子実体→胞子という生活環を描きます。(マクロシストというのがあるのですが、ここでは少し置いておきます。)

この移動体はまさに多細胞の生きものです。移動体にはやがて身を支える柄になる細胞群(予定柄細胞)と、やがて胞子が詰まった実になる細胞群(予定胞子細胞)の二つのグループに分かれます。多細胞生物でいうところの機能的分化が見られるわけです。

移動体ができるのは、各細胞自らが放出するある化学物質cAMP(ヌクレオチドと類似の物質である環状アデノシンモノリン酸、略してcAMP)をシグナルとして相互に送り、集合の過程が始まるようです。また、このcAMPを分解する酵素の分泌などの働きも関連し、シグナルの拡散と、cAMPの濃度勾配ができて自発的に組織化が始まるようです。

*(参考) cAMPは、すべての細胞で基礎的なエネルギー調節に関わっており、細菌では、cAMPは細胞が飢餓状態にあるときに生産されるもので、「グルコース・デストレス・シグナル」と呼ばれ、細胞の主要なエネルギー源であるグルコースが欠乏していることを示しています。*

つまり、飢餓情報によって細胞が集まるということ。そして移動体をつくり、少しでもうまく胞子が発芽しそうな場所へ移動。子実体をつくり背をうんと高くして胞子を飛ばす。飛ばされた胞子は、発芽に適した環境なら発芽し、あまり適していなければ眠って代謝機能を押さえて時期を待つ。(菌類の胞子は休眠体として長い期間眠ったままで大丈夫)。そして、このように胞子を飛ばした後、…柄細胞(体細胞)は役割を終えて分裂能力を失い死んでいくわけです。

もともとのアメーバ状態では、一倍体の真核単細胞生物で、分裂してどんどん増殖していきますから、ネクローシスを起こさない限り環境変動がなければ、原理的にはいつまでも「生き続ける」ことになります。ところが、飢餓状況になると生殖細胞になる細胞と、体細胞のようなそれを支える細胞に分化。生殖細胞は合体して二倍体化した後に、減数分裂(遺伝子組み替え)を行って4個の一倍体細胞(胞子)を作り、「生命」を連続させる…。まさに「死」して、「生」の可能性を胞子に残すということでしょうか。なぜ死ぬのかという哲学的な意味は極めて難しいところでしょうが、少なくとも「遺伝子組み替え(生殖)」と「死」との関連性が高いという事実は認められるところではないでしょうか。少なくとも私は、それほどにこの戦略の重さを感じてしまいます。

少しこの点を補足する例です。体細胞などは細胞の分裂回数の限界がありますが、この限界までに達する期間を分裂寿命と言います。この分裂寿命がある理由としてテロメアの存在がよく上げられます。線状になった染色体の構造を安定に保つための役割としてテロメアと呼ばれる(ヒトでは一万個ほどの)塩基対があり、これが分裂のために短くなって半分の長さほどになると分裂できなくなると言われます。(最近の発表ではどうも、それだけではないようですが。また、テロメア自身も意味のある重要な遺伝子を含むなどと発表されているようです。いずれにしろ、分子生物学的な機構については今後また明らかになっていくことでしょうが…)そして、生殖細胞や造血幹細胞には、テロメラーゼという酵素が働いてテロメアが短くならないようにしているので、分裂寿命がありません。また酵母でも、テロメラーゼが働くので、やはりテロメアは短くならない。そこで、この酵素が働かないようにすると、分裂増殖が止まってしまう。

ところが、中に分裂を続けるものが観察されたそうです。この酵母を観察すると、染色体が環状になっていた。環状になって安定化され、分裂を続けたというわけです。ところがさらに驚くべきことに、この環状の染色体は接合による生殖ができなくなってしまっていたとのことです。つまり、有性生殖に必要な減数分裂ができなくなっていた…。このことは、染色体が線状になり分裂寿命(細胞死)の生じたことと、有性生殖が密接に関連していることを意味しています。死の起源が性の様式の中にあるということでしょうか…。

有性生殖を行う生物は生命の連続(種の連続)のために、予想もつかぬ多様な遺伝子の組み合わせを持つ新生命体に未来を託して、旧適応機能を持つ古い生命体は排除する(死ぬ)という適応戦略をとってきたということでしょうか。そうすると、人類はなぜすぐに死なないのか、という疑問が起こりますが、恐らく直観的には人類の適応戦略がこの本能に基づく機能だけでなく、共認そして観念という機能は遺伝子に還元できないからだということが一番大きいように思います。が、この点はまたいつか考えてみたいと思います。ただし、この生命原理ともいえる有性生殖。その根源的システムを破壊することは全く違う生命体への道をとることであり、人類滅亡の危機を孕むということは確かだと思います。

吉国幹雄

« “自分”の子という認識はいつから?? | トップページ | 人間に残された本能 »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 死の戦略:

« “自分”の子という認識はいつから?? | トップページ | 人間に残された本能 »

Ranking

  • にほんブログ村 科学ブログ 生物学・生物科学へ お勧めサイトランキングへ
2020年8月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31          

カウンター

最近のトラックバック

無料ブログはココログ