« 性分化のパラドックス、その3(Yの淘汰) | トップページ | 意識生産においても男女の役割は明確 »

2013年5月 1日 (水)

性分化のパラドックス、その4(身体的な性)

遺伝的性から身体的な性を巡ってです。まず、基礎的な知識から。

「SRY遺伝子の機能は、胎生早期の未分化な性腺を精巣に分化させることである。いったん精巣が形成されると、以後はSRY遺伝子の有無とは直接に関係なく、精巣から分泌されるホルモンによって性の分化は進む。胎生期の精巣からは男性ホルモン以外に、抗ミュラーホルモン(AMH)が分泌され、AMHによってミュラー管が退縮・消失する。一方、ウォルフ管は精巣からのテストステロンによって分化発達する。これに対し女性ではSRY遺伝子がないので精巣が形成されず、したがってAMHも分泌されないから、ミュラー管は退縮することなく分化が進んで、卵管、子宮、膣といった女性性器が完成する。ウォルフ管はテストステロンの分泌がないために次第に消失する。」(『脳と性』下河内稔:朝倉書店)

つまり、精巣または卵巣の形態的特徴を備えるようになってから、次いで生殖輸管系とその付属腺、さらに外性器を含む外部性徴が形態分化をとげ、成体期になって男女別々の形態が完成する。この生殖腺の発達(性分化)は、精巣から出される「アンドロゲン」「AMH]の2種類のホルモンの分泌によって決定され、これらがうまく分泌されないと仮に精巣があっても、内外の生殖器は女性型になるという特殊事例もある…。だから、もともとは人間の身体は遺伝的性に関わらず、イブになるようになっている、というのだが。

すでに、[25546]で触れたように、人間の胎児は受精後7週ぐらいまでは、身体的には男でも女でもない状態、厳密には男にも女にもなれるような重複した生殖器官の原基をもっている「性的両能期」と言われます。男性生殖器となるウォルフ管、女性生殖器となるミュラー管の両方を持っているわけです。従って、この胎児における身体的性というのならば、未発達ではあっても多くの下等動物に見られるような、むしろ雌雄同体であるといった方が適切な表現です。ミュラー管のみが形成されているわけではないですから。だから、もともとイブという表現は適切ではなく、事実は以下のような表現になります。

【人間の身体的性は、両性機能(雌雄同体)を下敷きにしており、そこから単性へと発生は進む】(もちろん、両性とは中性ということではありません。自家受精できないものがほとんどです)このことは、人類だけでなく動物一般に見られる現象。その意味では個体発生は系統発生を繰り返す、つまり塗り重ね構造であるということを示しています。

ここで、注意すべきは性がどうにでも決まるような「あいまい」なものという意味ではないという視点が重要です。実際に4週ぐらいの10mmより小さい胎児の時に、すでに生殖細胞はできているという事実からも、決して性システムがいいかげんなものではないということは明らかです。つまり、必然的な性分化のシステムである!

しかし、精巣から分泌される二つのホルモンがなければ、身体的な男の性が実現されずに女の体になるというのは、一体どのように捉えたらよいのでしょうか。

私は思うのですが、やはりこれは淘汰の一種として捉えるべきだと思います。つまり、身体的な男になるための性淘汰であるというところに焦点を当てるべきであると思います。遺伝的な性におけるY染色体の淘汰に続く、第二の淘汰です。

【身体的男性へは、ホルモン(→免疫系)によって淘汰される】

何らかの理由で、精巣を作りながら、男という身体的性を獲得できなかったものが、集団の中の個体として、男でないもの(女性)として生きるようにセットされているということだと思います。あるいは、胎児のおかれている環境が母親の内部であって、その基質は女の基質ゆえに、男の身体的性を獲得できなければ、当然ながらその基質に一致するということかもしれません。…いずれにしろ、それは次代の種の存続に関わらない形で集団の中で生きていく役割を担うようになっているのではないでしょうか。ただし、胎児の段階で死ぬという割合も結構高いのではないかと推察されます。

ところで、男子と女子の出生比率はほぼ1対1になっていますが、受精段階での比率は流産した赤ん坊の性別判定から類推して、男は女の1.5倍ほどだろうという推測があります。これは、伴性遺伝子に個体に不利な遺伝子がヘテロのオスでは表れやすいので、流産しやすい、だからオスは弱いというような見方が多いようです。しかし、上記の点も含めて、私はこれはオスの淘汰が遺伝的性の発現後も進んでいるのだ、という見方の方が適切ではないかと思います。


吉国幹雄

« 性分化のパラドックス、その3(Yの淘汰) | トップページ | 意識生産においても男女の役割は明確 »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 性分化のパラドックス、その4(身体的な性):

« 性分化のパラドックス、その3(Yの淘汰) | トップページ | 意識生産においても男女の役割は明確 »

Ranking

  • にほんブログ村 科学ブログ 生物学・生物科学へ お勧めサイトランキングへ
2020年8月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31          

カウンター

最近のトラックバック

無料ブログはココログ