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2013年5月10日 (金)

人類の体内保育と脳の性分化

>身体と脳はまあ、別物ではない、密接に関連していることは承知なのですが。
生殖負担のちがいは脳の進化にどうかかわってくるのか???<(25891、長谷川さん)

長谷川さんのおっしゃるように、脳の性分化は性行動と社会的行動に関わってくるわけですから、捉え方として生殖と闘争という側面から性分化を切開するというアプローチと、性分化を体内保育(母親の内部環境=胎児の外部環境)という視点から捉えるアプローチとがあるのではないかと思います。もっとも、どちらからアプローチしても、結果的には、適応戦略、適応機能の一環でしょうから繋がってくるとは思いますが。

まず雌雄分化について、実現論[実現論1_2_02]では次のように述べられています。

>従って雌雄に分化した生物は、適応可能性に導かれて進化すればするほど、必然的に雌雄の差異が大きくなってゆく。それは、雌雄が同じ役割のままでいるよりも、オスは闘争・メスは生殖という風に役割分担を進めた方が、より種としての環境適応力が高くなるからである。<(実現論1_2_02

まず、母親の生殖負担というときに、単なる雌の性行動から捉えるのではなく、生命体・種としての適応戦略、つまり闘争・生殖の両面を抑えた上での役割分化であることを忘れてはいけないと思います。脳については、[25904]で触れたようにホルモン系が先行して、あるいは身体的性分化が先行していくのですが、高等生物において性行動や社会的行動(役割)の分化が進めば、脳においても分化が見られます。鳥類でも雌雄の脳の性分化が見られるわけです。従って、哺乳類特有ではない。しかし、人類ほど雄性化の関門が高い生物はいない…!

哺乳類は、弱者からの可能性収束として、卵を母体内で育てるという体内保育(ある意味では効率のよい過保護の育児戦略)という選択をとりました。この最大の弱点は、卵が外圧にさらされない(淘汰圧力を受けない)ということであり、従って原モグラでは、実現論[実現論1_3_04]でも触れられているとおり、性闘争によって個体淘汰を行うことで外圧へ適応してきたわけです。そしてサルは、同類闘争・さらに種間闘争に対して共認機能を発達させ大脳進化させてきました。その適応機能としての脳の発達のためには、この時点で体内保育期間を延長させる必要があったと思われます。それゆえに、雌は生殖負担が増大し、集団は雄が闘争を雌が生殖を主に担うための内雌外雄という同心円の構造をとらざるを得なくなったと考えられます。

しかし、裸のサルの人類は木に登れず自然外圧に適応できないという本能不全に陥り、原モグラの適応環境まで(あるいはそれ以上に)後退したわけです。徹底的な弱者に陥った人類は、大脳をさらに発達させて観念機能を獲得し危機突破を図っていきます。そして、サルよりも、さらに体内保育期間は分娩可能なぎりぎりの限界まで延長されることになります。ますます雌の生殖負担が増大したわけです。

しかし、体内保育期間の延長は、原モグラよりもさらに大きな矛盾を抱えることになります。つまり、当然その分、雄の闘争負担を増大させなければならない。つまり、雄の闘争力(人類の闘争力とは、共認機能観念機能)を高めなければならない。しかし、体内保育期間が延長されるとは、体内の過保護な環境が延長されるので胎児に淘汰圧力の働かない期間が延長されることを意味します。ここに、大きな矛盾(パラドックス)があるわけです。外圧環境が胎児にまで全く働かないということです。体内保育は必要であるが、闘争力の貧弱な弱者を生み出しては、戦力にならないという矛盾です。そこで、体内の淘汰圧を高めるというのが、「雄性化のための種々の関門」の意味だと思います。

長谷川さんの指摘された身体と脳の性分化についてさらに付言するなら、人類の突破機能が共認機能であり観念機能という脳の発達と密接な関係があるゆえに、また体内の過保護空間を突破するためにも、当然母親のおなかの中にいる時から、母親の意識やまわりの意識(母子関係や仲間関係、集団との関係、つまり共認関係)によって、絶えず影響を受けるようなシステムを人類は育児システムとして作り上げてきたと思います。それゆえに、人類における体内保育は、身体的性の分化から来る現実的な分担ではあっても、それは脳の性分化(社会的役割)に直結する重みを持つものだといえます。


吉国幹雄

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