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2013年6月30日 (日)

生命の上陸作戦からのメッセージ3(生命構造)

栄養豊かになった「汽水域」。しかし、それは海生域で生命活動を営む生命体にとっては、過酷は自然条件であったことには変わりはない。それは現在でも、汽水域に住む生物種は決して多くないことからも分かる。一体何が困難な条件なのか。それは、海水から淡水への適応とも絡む問題である。

つまり、「浸透圧」の問題である。海水中の塩分濃度と体内の塩分濃度が違うことにより発生する浸透圧が問題となる。

海に住む魚も淡水に住む魚も、実は細胞内液の浸透圧は生理的食塩水のそれと同じである。海の魚は飲んだ3.5%の塩水を0.7%まで減塩して細胞内液としているからである。逆に淡水の魚は塩分ゼロの環境の中で、細胞内液の塩分濃度を確保しているのである。

そうすると、この浸透圧差によって、海の魚では海水中にいることで大変な脱水が起きている。なぜならば、水分子は塩濃度の低い方から高い方へと移動(拡散)していくからである。逆に淡水の魚では反対にどんどん水ぶくれとなってしまう。それを調節する仕組みが、例えば「ナトリウムポンプ」の減塩装置や、「カルシウム」を確保するための生命維持装置としての「骨(リン酸カルシウム)」や「腎臓」のシステムが出来上がっていかないと、適応しにくいことになる。

*ここでは、詳しいシステムの話は省略。ただ、カルシウムの話はとても面白いので関連サイトを興味ある方は見てください。参考図書として、『新カルシウムの驚異』藤田拓男(講談社ブルーバックス)があります。
リンク


このように見ていくと、栄養豊富となった「汽水域」の適応の難しさがはっきりしてくる。「汽水域」は海と川の両方が交じり合う所。ということは、浸透圧の変動が大きいということを意味する。従って、生命維持という条件においては、汽水域は決して豊なニッチということにはならない。

『生命40億年はるかな旅2』(NHK出版)によると、5億年前にオウムガイ(頭足類)の出現とほぼ同時期にアランダスピスなどの無鰐類の魚が登場したが、運動量に勝るオウムガイとの闘争に破れ、古代の海の制海権を奪われた初期魚類は、逃げ場を「汽水域」に求めた、ということらしい。種間闘争とその逃避可能性を高めた(栄養豊富な場所だが生存条件の悪い)自然環境ができていたからだろう。そして、やがてアランダスピスから発達したプテラスピス(初期の魚)は、この「汽水域で」困難な浸透圧の壁を突破して、見事に適応していったのである。

この適応のシステムは置いておくとして、しかし問題は、なぜそれまでして細胞内の濃度を一定にしておかなければならないかということだろう。

原始の海は、塩分濃度も極めて薄かったと考えられている。マグネシウムとカリウムが主成分の海から、やがて地殻(海底や陸地)からのナトリウムやカルシウムが流れ込んできて、塩分濃度は少しずつ高まってきたと考えられている。従って、生命体が発生した頃の海の濃さを(環境)を、生命体はそのまま内部に取り込む形で、体外の塩分の濃度変化に対処してきたのではないだろうか。

その典型が、羊水である。本格的な陸生動物である爬虫類、鳥類及び哺乳類は、合わせて羊膜類と呼ばれるが、いずれも産卵、受精及びその後の生育は完全に陸上ですすめている。しかし、陸生とはいえ、実は卵内の羊膜という袋の中に羊水と呼ばれる液をため、その中で胚の発生は進む。依然として、肺は水の中で育つのである。人間もしかりである。そして、胎児が浮かぶ羊水の成分は原始の海そのままともいわれ、成分が安定している水深2000メートルを流れる深海水と、ほぼ同じ塩類を含んでいるという…。

生命体は、さまざまな適応システムを作り上げて上陸作戦を成功させた。その困難さの最大の原因がなんと原始の海の保全であるとは…。それほどまでに、生命体が誕生した「母なる海」を基盤とした、変えることのなき「生命構造」…。ここに、進化を遂げた生命体からの第三のメッセージが聞こえてくる。

【生命体がどのように進化しても、生命という基礎構造は不変である】

おそらく、この生命構造が変わるとき、全く新しい現在の生命体とは違う「なにか」に変わってしまうのかもしれない。そして、それは地球生命圏が受けれいれられない何かであるかもしれない。人類を始めとする生命体が、そうならないことを祈る。

吉国幹雄

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