「表皮と中枢神経は外肺葉由来」の名残りを残す表皮
「表皮も神経も外胚葉由来」です。また、「細胞膜は外部情報のセンサー」であり、「皮膚はバリア」です。直感的には、皮膚はどえらい機能を有する一大器官だと予感させられますが、そのことをコツコツと検証し論及する本がありました。
「皮膚は考える」(傳田光洋,岩波科学ライブラリー112)
を紹介しながら、更なる推論をしてみたいと思います。
●表皮は、自律的なバリア適応システム
皮膚は角質・表皮・真皮から成り、角層破壊・湿度変化・圧力変化などをモニターしながら、神経系や循環系とは離れた自律的なシステムで適応するシステムなようです。それは、表皮のイオン濃度差によって起きる皮膚の表面電位が、バリア機能の再生という応答をすることによるそうです。
皮膚のバリア機能は2段階構造で、1段目は膜として異物の侵入を防ぎ、2段目はランゲルハンス細胞が増えて免疫バリア機能が増強される、というシステムであることは、免疫の教科書にも良く出てきます。
表皮のバリアが破壊されると、ケラチノサイトは炎症を誘導するサイトカインの合成を始めますが、その合成も表皮の水透過機能をモニターしながら調整しているようです。
●皮膚が免疫系・内分泌系に及ぼす影響
ケラチノサイトは、ホルモンや神経伝達物質カテコールアミンの一種であるL-ドーパ、ドーパミン、ノルエピネフリン、エピネフリンなどの物質を代謝でき、ACTH、サブスタンスP、β-エンドルフィンも合成していることが、明らかになってきました。
表皮や脳中枢が外肺葉由来で、個体発生は系統発生をたどるだけでなく、その名残りが表皮に残っているということが分ってきたということになります。
撫でたり、圧したり、抓ったり、切ったりすることに対する応答は、表皮の基底部や真皮下層の神経によるものとされてきました。一方、表皮を形成するケラチノサイトは、温度や化学物質などによるイオンチャネル内蔵型受容体でもあります。ここまでは、従来の考え方です。
ATP(アデノシン3リン酸)は生体内ではエネルギー通貨ですが、神経系では情報伝達物質でもあります。表皮ケラチノサイトは空気に暴露するとATPを放出し、ATP受容体を介して放出した細胞自身や周りの細胞(神経末梢など)に作用してカルシウムイオン濃度を変化させます。
ということは、皮膚感覚の最初の受容機構をケラチノサイトが担っている可能性が高く、外部刺激により体内の免疫系・内分泌系を作動する役割をも含んでいると考えられます。
また、中枢神経系で重要な役割を担うもう一つのG蛋白質結合型受容体を作動させる情報伝達物質には、アドレナリン、セロトニン、ドーパミン、メラトニンなどがありますが、表皮ケラチノサイトにはアドレナリンβ2受容体も存在するらしいこともわかってきました。
●皮膚の情報センサー機能が、オス経由で進化に及ぼす可能性?
表皮が様々なホルモンや情報伝達物質を産生する能力があるということは、表皮の異常が他の臓器の異常を惹起している可能性があるのではないか、と傳田氏は問題提起しています。皮膚が環境外圧情報をキャッチし、体内環境の変化をもたらすという知見は、進化のメカニズムを解くヒントとなりそうです。
*外圧を皮膚が感知し、その情報が全身的なものとして充たされるなら、個体発生の初期段階で生成してしまう卵の場合は環境の影響を受け難いのに対し、成体になっても継続的に分裂を続ける精子にその影響は出やすく、生殖によって次世代に遺伝情報の塗り重ねor書き替えがなされる可能性が高いと思われます。
小圷敏文
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