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2015年3月 8日 (日)

脳神経細胞とグリア細胞の協働~神経回路の繋ぎ役アストロサイトと整理役ミクログリア~

■「神経回路の整理役」 ミクログリア

174212に記したように、ミクログリアは脳神経細胞を「守る」細胞だが、それ以外の役割も担っていることが最新の研究で明らかになっていきた。その役割とは、「神経回路の整理」役である。

動物の活動や行動は、神経細胞から伸びる神経線維が複雑に繋がることで形成された神経回路によって制御されている。神経回路は発生過程において、おおまかに作られ、感覚情報の処理や複雑な行動の制御に最適で、機能的な形に完成されていくのだが、おおまかな回路から、最適で機能的な回路へと完成させていくには、一端つくられた神経回路の一部を部分的に作り変えてゆく作業=不要になった神経線維だけを選択的に取り除いたり、新たな神経線維を再伸張させたりする作業が必要になる。

このような「不要な神経線維の選択的除去」を行っているのが、ミクログリアの貧食機能であることが解ってきた。つまりミクログリアはその貧食機能によって、「神経回路の整理」を行っているのである。

■「神経回路の繋ぎ役」 アストロサイト

アストロサイトとは、中枢神経系で働く神経幹細胞由来のグリア細胞で、グリア細胞の中で最も大きく、数も最も多い。
この細胞の突起は神経細胞の細胞体やその軸策、および毛細血管表面を被い、神経細胞同士が直接接触するのを防ぐとともに、神経細胞が周囲の組織間液に露出しないように保護している。

アストロサイトは、内部に細線維(フィラメント)を有しており、機械的な強靭さを持っている。脳神経細胞は、他の体細胞に比べて、支持するコラーゲン線維が乏しい為、アストロサイトが繋がって、神経線維を保持している。
アストロサイトは、このような神経細胞の「支持細胞」としての機能の他に、「神経回路の繋ぎ役」として、種々の機能を有することが解ってきている。

・損傷した神経細胞の修復機能
 アストロサイトは壊れた神経細胞を修復して瘢痕(傷跡をコラーゲン繊維等で置き換えて修復した跡)を形成する。

・神経細胞の発生誘導機能
 主要に脳神経回路が劇的に発達する発生段階(胎児期)に、神経栄養因子を出し、発生中の神経細胞の成長を誘導する。 神経細胞の培養実験において、単独で培養する場合より、アストロサイトを混ぜた場合の方が、より効率の高い神経線維形成が認められる。
また、アストロサイトは神経細胞間でシナプス伝達の経路となる”スパイン”に絡みついて、スパインを安定させ成長を促す。グリア細胞との接触度合いが高いスパインほど、神経細胞間の伝達を行う”シナプス”が成熟し、連絡が安定化する。

・神経幹細胞機能
 アストロサイトは、自ら神経幹細胞として分裂し、神経細胞を生み出すことが、最近の研究で証明された。アストロサイトから脱分化(分化する前の細胞の状態に戻ること)して、神経幹細胞となること、また再び神経幹細胞から分化してアストロサイトになることが解っている。これは網膜内に存在するミューラー細胞(アストロサイトと同じ細胞)でも同じ現象が確認されており、網膜組織内の実験において、脱分化して形成された神経幹細胞が自己複製能を持ち増殖すること、神経細胞集合体を形成することなども確認されている。
これは、アストロサイトが自ら神経細胞を生み出して、神経回路を形成していくことを意味していると同時に、損傷して失われた中枢神経細胞が、アストロサイトの働きによって復活する可能性を持っていることを示している。

・グリア-神経細胞回路網の構築機能
 アストロサイト同士は、ギャップ結合(169453参照)によって結合し、物理的細胞間連絡を行うことが確認されている。これによって、アストロサイト内のカルシウムイオン(Ca2+)の変動が、Ca2+ウェーブとして、発生した細胞から周辺の細胞へと広がっていく。このウェーブによって引き起こされるアストロサイト網の興奮は、神経回路へも伝達され、神経回路全体の興奮(ここでは情報伝達を意味する)を誘導する。
このことから脳神経回路とは、神経細胞間のシナプス伝達と言う平面的なネットワークではなく、グリア細胞(アストロサイト)間の伝達(Ca2+ウェーブ)、グリアー神経細胞間の伝達、神経細胞間の伝達(シナプス伝達)と言うように立体的に構築された、「グリアー神経細胞回路網」となっていると言える。

以上のようにアストロサイトは、脳神経回路網の支持、修復、発生誘導、回路形成を行いながら、自らも複雑なネットワークを形成して、神経回路網の複雑な情報処理の一翼を担っている。
アストロサイトとは、一言で言えば「神経回路の繋ぎ役」と言える。

■脳神経回路網は、脳神経細胞とグリア細胞の協働によって構築される。

これまで見てきたように、発生過程でおおまかに形成された脳神経回路は、「神経回路の繋ぎ役」アストロサイトによって複雑に繋がれながら、一方で「神経回路の整理役」ミクログリアによって、不要な回路が整理され、最適で機能的な形に完成され、また維持されていく。
すなわち、「脳神経回路網とは、脳神経細胞とグリア細胞の協働によって構築される」と言える。

なお、高度に発達した生物ほど、脳神経細胞に対するグリア細胞の比率が高くなる。グリア細胞の数は諸説あるのだが、東京大学医学部 岡部繁男教授によれば、ねずみで(脳神経細胞に対するグリア細胞の比率が)0.4倍、猫で1.4倍、人間で1.8倍、鯨で6倍となっており、基本的には運動能力が上昇するほど、又、脳機能が発達するほど比率が増える。
このことは、脳回路にとって、神経回路の絶対量だけでなく、グリア細胞の量が極めて重要になることを示していると言える。言い方を替えれば、「高度な脳神経回路網を形成・維持するにはグリア細胞が必要不可欠となる」とも言える。

なお、脳神経細胞の絶対量は個人差は小さいが、グリア細胞の比率はかなりの個人差があり、天才として知られるアインシュタインのグリア細胞比率は、常人のそれより飛びぬけて多かったことが知られている。

<参考文献・論文>

  ・第15回 神戸バイオサイエンス研究会 
    網膜グリア細胞由来神経幹細胞について
    神戸大学医学部附属病院 藤井 繁樹助手
  ・科学技術振興機構構報 第301号
    グリア細胞による変性神経線維の貪食除去機構
    元論文:マサチューセッツ工科大学 医大学院 粟崎 健他
  ・独立行政法人理化学研究所、独立行政法人科学技術振興機構
    グリア細胞の接着によって完成する神経細胞の成熟
  ・細胞工学 2003年NO.4 VOL.22
    序.グリアーニューロン回路網の概念
  ・NHK サイエンスZERO 2008年3月8日 第200回放送
    脳の知られざる主役 グリア細胞
  ・HP BRAIN リンク
  ・ウィキペディア 「グリア細胞」

西谷文宏

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