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2016年11月21日 (月)

『皮膚は考える』書評① :皮膚自体が情報処理システムを供えた高度な臓器  

『皮膚は考える』の紹介は、171812でもされていますが、「皮膚が情報管理システムとして機能している」という仮説から、「ツボ(経穴)を刺激することで中枢神経系にその情報が伝わる経絡のメカニズム」仮説、「生態系としての皮膚=生態系である皮膚とその住人である皮膚常在菌」の重要性など、皮膚治療を専門にしているドクター江部氏自身の考察に可能性を感じますので紹介します。

ドクター江部の糖尿病徒然日記リンクより、転載します。
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 皮膚は外胚葉由来の器官である。医療関係者なら誰でも知っている事実である。そして,脊椎動物にはもう一つ外胚葉由来の器官がある。中枢神経系と末梢神経系だ。これも周知の事実である。

 ところが,同じ外胚葉由来なのに両者はまったく別物として扱われている。神経は神経,皮膚は皮膚であり,共通点があるかどうかも問題にはされてこなかった。皮膚科の教科書にも脳外科の教科書にも,「皮膚と中枢神経は外胚葉由来」と書かれているが,記述はそこでお終いだ。皮膚科と脳外科は完全に隔絶した別個の診療科だからだ。
 だから,「皮膚も神経も外胚葉由来」というのは知識として知っているが,それに意味があるとは誰も考えない。皮膚と神経が外胚葉由来というのは,単なる偶然だと思ってしまう。

 「皮膚と中枢神経系はともに外胚葉由来」という誰もが知っていて,誰もが無視している事実を愚直に追及している研究者がいる。それが本書の著者である。いろいろな事情があったらしいが,大学の研究室を離れて化粧品メーカーの研究部門に入り,そこでコツコツと基礎実験を重ねている研究者である。
 そういう研究者が,それまで皮膚科学にも神経学の教科書にも書かれていない新事実を発見したのだ。それが,表皮ケラチノサイトに存在する情報伝達物質の受容体である。

 しかし,本書に示されている「表皮に神経組織にあるのと同じ情報伝達物質受容体がある」という研究内容を国内の皮膚科雑誌に投稿しても受領されない。この研究結果が何を意味するか,皮膚科雑誌は理解できなかったためらしい。
 ちなみに,日本の学会雑誌からは拒否されても,海外での評価は高く,海外の学会から招待講演をよく行っているそうだ。

 医学がどんどん細分化され,蛸壺化しているため,複数の分野にまたがる発想を受け入れる下地が失われてしまったのがその原因だろうと思われる。これは医学にとっても不幸な事態だと思う。

 皮膚とは何か。医学の常識からいえば,防御器官であり排泄器官であって,それ以上でもそれ以下でもないと医学教育は教えてくれる。要するに,大切な内蔵や筋肉を包む袋であり,せいぜい,汗を出すくらいの働きしかないというわけだ。

 ところが本書は,膨大な証拠を提示して,「皮膚は単なる袋ではない。皮膚は神経系や循環系と離れた独自の機構を持っている。表皮のケラチノサイトに神経伝達物質の受容体があるのは皮膚自体が高度な情報処理システムを供えた高度な臓器であるからだ」ということを明らかにしている。これまで不当に扱われてきた皮膚という臓器の復権といってもいいだろう。

 合目的的に考えれば,生体の最外層を覆う表皮は一番最初に外界からの刺激(情報)を受けるわけだから,当然,表皮そのものに情報受容体があり,その刺激(情報)に対応して自立的に行動を起こす能力を備えていることは不思議なことではない。むしろ,外界からの刺激(情報)を直接受け取り,それに対応して必要な行動を起こす「情報処理システム」は,中枢神経系を持たない生命システムにおいては,生命維持に必須のものだろう。

 そして,生命進化の過程でより高度な情報処理システムである神経系を構築しようとしたとき,それをゼロから組み立てるのでなく,既に自立的の情報処理システムを有している表皮(=外胚葉)を拝借して,表皮を素材として新たな神経系を構築するのは極めて合理的だし,何より手っ取り早い。
 実際,無から作るのでなく,すでにあるものを利用して新しい組織や器官を作るリンクのは,生命進化の歴史では普遍的に観察される現象らしい。

 「皮膚も神経も外胚葉」という真の意味はここにあるのではないだろうか。単なる山勘だが,私はそう考えている。

 本書では,ケラチノサイトがL-ドーパ,ドーパミン,エピネフリンなどの神経伝達物質カテコールアミンを合成・分解し,βエンドルフィンの合成すら行っていることを示しているし,神経末端に存在するイオンチャネル受容体がケラチノサイトにも存在し,それが受容体として正常に機能していることを示している。何れも,本書の著者による見事な発見である。要するに,表皮は外部からの刺激を,神経を介さなくても受容し,反応していたのだ。

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(②に続く)

松重臣 

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