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2018年5月13日 (日)

極小生命伝説の真相~ナノバクテリアの正体は炭酸カルシウム(CaCO3)?

きまぐれ生物学
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極小生命伝説の真相(2008.05.09)
近年,直径 0.5 μm 以下の極小の "ナノバクテリア" の存在と病原性への関わりが指摘され, その実在を巡って議論が行われています。Martel & Young (2008) はヒトの血中から報告されていた "ナノバクテリア" を検証し, その正体が非生物的な物質であるとの結論に至っています。
生物は,あるいは細胞はどこまで小さくなれるのか,という疑問は,生物の定義や細胞の成り立ち, あるいは地球外生命の話題まで含めてちょっとした問題になっていました。それと同時に "ナノバクテリア" が種々の病気, 胆嚢結石,腎結石,多発性嚢胞腎,関節リウマチ,HIV との重感染,卵巣癌,鼻咽腔癌,アルツハイマー病,慢性前立腺炎, などの病気に関与していることが指摘されています。ヒトの "ナノバクテリア" は 80-500 nm の大きさで, 0.2 μm のフィルターも通過するそうです。このような構造は体内によく見つかるそうで, ヒドロキシアパタイトの核形成に関与しているようです。
そこで "ナノバクテリア" の正体は何か,ということになると,最小の細胞であるとか,原始的な生命であるとか, 複数の仮説が存在し,他の "ナノバクテリア" の報告と合わせて真偽が議論されています。 "ナノバクテリア" が生物であるとの根拠としては,細胞培養液中での増殖(ただし遅い),特定の抗体への反応, そして細菌のような外見(分裂しているように見える)などが挙げられています。しかしながらヒトの "ナノバクテリア" からは信頼できるリボソーム RNA 配列は得られておらず,生物であるとの主張には疑問の声もありました。 そこで著者らは今回,"ナノバクテリア" が生物か否かを多角的に検証しています。
まず著者らは "ナノバクテリア" の判断基準として,電子顕微鏡下での細菌様の外見,約 3 日の倍加時間(遅い), ハイドロキシアパタイトの検出,そしてナノバクテリアへの抗体とされるもので染色されるもの, という 4 点を採用しました。次に 5 日間培養した血清に白い沈殿が生じているのを認め,これを詳細に調べました。 この沈殿中には走査電子顕微鏡で見るとナノバクテリア様の構造が存在し,分裂中に見える構造もあったそうです。 またハイドロキシアパタイトも含まれているものの,形態的には純粋なハイドロキシアパタイトの結晶ではないそうです。 ただ,血餅の液体画分から培養されたナノバクテリア様構造はハイドロキシアパタイトを含まないことも確認していて, ナノバクテリア様構造が少なくともハイドロキシアパタイトの結晶そのものではないことも指摘しています。
著者らはここで炭酸カルシウム(CaCO3)をナノバクテリア様構造の正体の候補として検証します。 炭酸カルシウムの沈殿の形成条件を色々と調べた結果,炭酸アンモニウム((NH4)2CO3) と塩化カルシウム(CaCl2)から炭酸カルシウムを生成する反応を DMEM(培地)中や血清中で行った場合に, 炭酸カルシウムの結晶とはまるで異なる球形の構造が得られました。球形の構造は "ナノバクテリア" とよく似ており, さらに分裂中の "ナノバクテリア" に見えるものもあったそうです。球形構造の形成にはタンパク質かマグネシウムイオン (Mg2+)のような二価陽イオンが働いていると見られています。
著者らは "ナノバクテリア" の培養下での増殖を化学的に説明できることも指摘しており,DMEM 中では生成しない沈殿が, DMEM と血清を混ぜ,二酸化炭素を添加することで生成することを確かめています。ここでは血中のカルシウムイオン (Ca2+)と炭酸イオン(CO32-) の反応で炭酸カルシウムが生成していると考えられました。
さて,おそらく最も重要な検証はナノバクテリアを特異的に認識するとされる抗体の検証です。この抗体は牛由来の "ナノバクテリア" を摂取されたマウスの細胞から得られたもので,Nanobac Oy という会社から購入できます。 著者らがその内の 8D10 と 5/3 を調べた結果,どうやらこれらの抗体は血清アルブミンを認識していることがわかりました。 そしてアルブミンが炭酸カルシウムの結晶化を抑えて球形の構造の生成に関わっているとすれば, これらの抗体がナノバクテリア様構造に反応することも理解できます。
結局,"ナノバクテリア" の正体は生物ではなくタンパク質を含んだ炭酸カルシウムの沈殿である可能性がでてきました。 著者らは "ナノバクテリア" が生物なのかどうかの検証として,強い(30 kGy)ガンマ線照射も行いましたが, "ナノバクテリア" の出現には影響なかったそうです。加えてナノバクテリア様構造は目が 0.1 μm 径のフィルターを通した血清からも得られており,生物だとすれば直径 100 nm 以下ということになります。 しかし細胞内に DNA 複製装置などの構造が必要と考えれば,径 200 nm 以下の細胞は考えにくいとされているとのことで, これもナノバクテリア様構造が生物である可能性を否定します。
ナノバクテリア様構造は健康なヒトの血清からも生成したことから,病原性との関連も否定され, 病原性のナノバクテリアという概念はどうやら大きな間違いだったようです。既知の生物とは本質的に異なる生命, というロマンがしぼんでしまうのは残念ですが,"ナノバクテリア" の存在は理解に苦しむところもあったので, 半ばほっとするところもあります。しかし血中での炭酸カルシウムやハイドロキシアパタイトの沈着自体は起こりうるわけで, その医学上の意義自体は今後独立に調べられていくのかも知れません。 なお最後に,直径がおよそ 200 nm の確かな最小の生物が知られていることは付記しておきましょう (最小の生物はちょっとシャイ?)。



岸良造

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