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2018年8月 7日 (火)

生命・細胞・血球の起源⑤-3

( リンク )の続き
 ④地衣類における共生現象
 すべての地衣類は菌類と藻類との共生によって生じ、地衣類の白色の部分は菌糸でこれが緑顆層を構成しています。菌類の芽胞は発芽しますがその若い葉状体は、適当な藻類との遭遇がなければ発育を中止してしまいます。これは藻類が炭素同化作用によって有機物を合成し菌に与え、菌は水分及び水に溶解している無機塩類を吸収しその一部を藻類に与えるという共生生活ができないからです。
 地衣類の種類によって共生する菌と藻の種類は大体が一定ですが時には、同一の菌が種々異なる他種の藻類と適応して共生し、別種の地衣類を形成することもあるという報告があります。
 2種の地衣類が同一葉状体のように並んで生育し、或いは反対に同一藻類が種々な菌糸とともに別の地衣類を形成することも知られています。また地衣類は菌糸を従来のものと取り替えることにより他種の地衣類に種の転換を起こすこともあります。
 地衣類を構成している菌類と藻類が共生体の特性だとされる"相互に等しい利益を受けあっている"か否かは、一般に考えられている程はっきりしてはいません。今日においても、次の4説があって未解決のまま残されています。
  ①菌類は藻類を喰って生きていて一種の寄生性がうかがえる。
  ②藻類が菌類に寄生している。
  ③両者は互いに共生生活をしている。
  ④同等の利益交換はない。
 ①説を主張しているスゥエンドナーは菌類が主人であり、藻類は従者だといっています。クモがその巣で虫を捕らえるように、菌類が藻類を取り囲み、その栄養を吸い取るため藻類は数代後にはもはやその存在が認められなくなるといっています。ウオーニングも藻類は独立の生活を営むことができるが、菌類は藻類を必要とします。だから菌類と藻類は特殊な寄生であるとし、ダニロフも菌糸は藻類の内部に侵入して内容を吸収し藻類を死に至らしめるから寄生だと考えています。
 ②説は①説とは反対に藻類こそ寄生性をもち菌類は宿主だとするものです。ベジェリックは地衣類から分離した藻類を硝酸と糖分とで培養を試みましたが成功しませんでしたが、有機性のペプトンを加えたところ始めて培養に成功しました。このことから藻類は菌類から栄養を受けているから藻類こそ寄生性のものだと主張しました。
 ③説は前2説の中間説でバリーやリンクたちによって支持されている説です。リンクは藻類と菌類との関係は緑色植物における葉と根の関係に等しいもの、即ち藻類は自養性で空気中の炭酸ガスから炭水化物を光合成し、菌類からはナトリウムやアルブミン、水分、無機物などを与えられます。
 菌類は藻類の合成した炭水化物の助けをかりてアルブミンその他の物質を合成するから両者は正に共生であると主張しています。
 ④説はコーレイの主張する説で、菌類と藻類とは地衣類において相互に密接に適応していて独立性は失っていますがそのような場合でも藻類は菌類よりも独立生活をしやすい性質をもっています。
 コダッツやその弟子は研究結果から"藻類がペプトンを要求するということで、必ずしもそれを寄生虫のものだと判断することはできない。なぜなら他の下等藻類でも同様の性質をもっているから……。
 前述した4つの説に対し、千島喜久男は次のような意見を述べています。
 『私は地衣類を深く研究したことはないが、菌類その他についてはこれまでの自己の研究を総合して判断するとき、この4つの説は何れも一面の真理を語るものではあるが、どれも不十分な点があると考える。まず第一に共生現象はこれまでかなり固定的に考えられがちだった。なるほど地衣類の生活段階の一定時期においては、菌と藻は互いに等しい利益を交換している時もあっただろう。いわゆる定型的な共生の時代がそれである。…①説…しかし、環境の変化や時間の経過によって一方が他方を消費することで何れかが比較的優位を示すこともあるだろう。それは①や②説に該当する。
 ④説はかなり動的な見解であり、私の考えに近いものだが、コーレイは他の一般生物学者と等しく菌類と藻類とはまったく別種のものであるとしている。たしかにそれは今日の生物学的常識からはもっともなことである。しかし、"種"の概念には今日まだ多くの疑義が残されており、地衣類それ自体が種の転換を起こす場合もあるという説も唱えられている。そのうえ、菌類と藻類との関係は菌糸と胞子との関係に似ている。現に私はある種のカビにおいて、菌糸から生じたいわゆる胞子は藻類と近似的なものではないかと推測している。菌糸が膨大して生じた胞子または芽胞様体が地衣類の組織内では、いわゆる藻類になるのではないかということも推測できる。"菌糸が藻類を取り巻き或いはその内部に侵入している状態"と考えられているものは実は、菌糸の一端から藻類を形成しつつある状態だと考えられないこともない。地衣類において菌類と藻類が常に共存している理由を、両者が偶然に遭遇した結果であると考えるより、一定の環境条件と基質の存在とによって、その場所にバクテリアの発生を先駆として菌類や藻類の発生が可能であろうと私は考える。コーレイの主張する菌類と藻類とを純粋培養することがこの問題の解決策だという考えには賛同できない。なぜなら、地衣類の生育する自然的環境とはまったく異なる人工培地での実験結果は、この場合、正しい意味をもたないことになるからである。
 第二には、現代生物学では生物の発生、成長、進化をすべて細胞分裂を基調としているが、地衣類の場合、細胞分裂がその発生、成長、増殖の基礎となっいることを実証した人があることを私は知らない。恐らくそれは不可能であろう。私の主張している微生物の新生と、それらの融合と分化による新しい細胞、個体、新種への発展進化という観方からすれば、地衣類を構成する2種の生物の関係は時に共生と見られ、時には寄生と考えられる面があっても、それらは凡て時間、環境の諸条件を通じて生物が下次段階の単位からより高次の生物に進化する動的変化の一つの相を示しているものと解するのが妥当だろう。』




本田友人

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