« 哺乳類は腸管表面のバリア免疫機構を失うことで腸内細菌の定住を可能にした | トップページ | 植物は音波を感知する聴覚機能を備えている »

2019年3月 1日 (金)

共生細菌が宿主昆虫をメスだけにするしくみを解明-オスのX染色体を切断して細胞死を引き起こす-

以下引用
(リンク)
―――――――――――――――――――――――――――――――――
■研究の社会的背景
微生物の高度な生物機能は、食品生産、医薬品開発などのさまざまな分野で利用されてきた。近年、多様な微生物の中でもとりわけ、動物や植物と共生して高度な生物機能を発揮する共生微生物が未探索の生物資源として注目されている。昆虫類もまた、生物多様性の中核を担う動物群として、その多彩な生物機能の開発や利用が期待されている。
昆虫類と微生物の共生関係はしばしば見られるものであるが、なかでも共生微生物が感染することにより、宿主昆虫がすべてメスになる、宿主昆虫の性分化や生殖様式が劇的に変化するなど、いわゆる生殖操作という現象は、基礎生物学的に興味深いだけでなく、有用昆虫の雌雄別の生産や天敵農薬の効率的生産などの技術開発につながる可能性もある。しかし、その具体的な分子・細胞レベルの機構についてはまだ不明の部分が多い。
■研究の内容
キイロショウジョウバエのメスが産む卵からは、通常はオスとメスがほぼ半々の割合で発生するが(図1A)、共生細菌スピロプラズマに感染したメスの産む卵からはメスのみが発生する(図1B)。
スピロプラズマ感染メスの産む卵の孵化率は半減しており、オス卵が殺されてメス卵のみが孵化するオス殺しが起こっていることがわかる。卵内の胚を調べてみると、メス胚は正常なのに対し、オス胚全体にアポトーシスというタイプのプログラム細胞死が起こっており(図2A、B)、これがオス殺しの直接の原因であることが示唆された。
なぜオス胚のみにアポトーシスが起こるのかを調べるために、次世代シーケンサーを用いて、スピロプラズマ感染オス胚、感染メス胚、非感染オス胚、非感染メス胚における発現遺伝子を網羅的に解析したところ、感染オス胚でDNA損傷/修復関連遺伝子群およびアポトーシス関連遺伝子群の発現が顕著に上昇していた。
先行研究において、がん抑制遺伝子として有名なp53遺伝子が、DNA損傷に応答してアポトーシスを誘導することが知られていた。そこでp53遺伝子を欠失したハエにスピロプラズマを感染させてみたところ、オス胚におけるアポトーシスは抑制された(図2C)。すなわちスピロプラズマ感染オス胚では、DNA損傷を引き金としてp53経路を介した細胞死が起こっている可能性が示された。
 次に、スピロプラズマに感染したオス胚のどこにDNA損傷が生じているのかを調べるために、染色体上の DNA損傷部位を可視化してみたところ、オスのX染色体上に集中していることがわかった(図3A、B)。細胞分裂の過程を観察したところ、オスのX染色体はうまく娘細胞に分配されず、頻繁に架橋や切断が生じていることが観察された(図4A、B)。
それではどのようにスピロプラズマはオスのX染色体を識別しているのか。ショウジョウバエのオス(XY)はメス(XX)の半分しかX染色体がなく、遺伝子発現量を倍加させる活性をもつタンパク質-RNA複合体である遺伝子量補償複合体がX染色体の全域に結合することにより、遺伝子発現量を調節していることがわかっている。試しにショウジョウバエのオス胚における遺伝子量補償複合体の形成を妨げたところ、スピロプラズマ感染オス胚におけるアポトーシスが抑制された。さらにショウジョウバエのメス胚において、遺伝子量補償複合体を強制的に発現させたところ、スピロプラズマ感染によりメス胚も死ぬようになった。
つまりスピロプラズマは、遺伝子量補償複合体が結合したオスのX染色体を認識してDNA損傷を起こし、胚発生の過程でp53経路を介した細胞死をオスに特異的に誘導している。その結果としてオス卵がすべて死亡し、メス卵のみが正常に発生する。
■今後の予定
 今回スピロプラズマによるオス殺しのしくみを解明したが、スピロプラズマが遺伝子量補償複合体の結合したX染色体を認識してDNA損傷を起こす具体的な分子機構は未解明である。DNAや染色体に結合性のある毒素やエフェクター分子、標的構造依存性のDNA分解酵素などが候補として考えられるが、スピロプラズマのゲノム解析、スピロプラズマ感染ショウジョウバエの代謝産物解析などから、その分子実体の解明に取り組んでいく。
 有用昆虫はオスとメスで産業応用的な価値が異なるものが少なくない。たとえば寄生バチ類は天敵農薬として広く利用されるが、害虫の体内に産卵して殺す能力をもつのはメスだけなので、メスを選択的に生産できると都合がよい。本研究の成果を応用することにより、昆虫を雌雄別に生産できる技術開発につながることが期待され、そのような観点からの研究も展開していく。



穴瀬博一

« 哺乳類は腸管表面のバリア免疫機構を失うことで腸内細菌の定住を可能にした | トップページ | 植物は音波を感知する聴覚機能を備えている »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« 哺乳類は腸管表面のバリア免疫機構を失うことで腸内細菌の定住を可能にした | トップページ | 植物は音波を感知する聴覚機能を備えている »

Ranking

  • にほんブログ村 科学ブログ 生物学・生物科学へ お勧めサイトランキングへ
2019年9月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30          

カウンター

最近のトラックバック

無料ブログはココログ