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2019年6月

2019年6月28日 (金)

「敗者」こそが生命史をつむいできた-1~汽水域に追い詰められた弱い魚たち

「敗者」というと、戦いに敗れた弱い存在、みじめな存在だと考えてしまうが、38億年に及ぶ生命の歴史の中では、むしろ強者こそが先に滅び、敗者のほうが生き残ってきたのが事実です。

以下、生物学者の稲垣栄洋氏の記事「「敗者」こそが生命史をつむいできた」リンク より転載します。
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■偉大なる一歩は本当に「偉大なる挑戦」だったのか?

海の中で生まれ、育まれてきた生物。その中で、最初に「上陸」を果たした脊椎動物は原始両生類である。

懸命に体重を支え、ゆっくりとだが、力強く手足を動かし陸地に上がっていく。その目は、まさに未知のフロンティアを目指す意志にみなぎっている。

人類で初めて月面に降り立った宇宙飛行士のアームストロングは「これは人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍である」という言葉を発した。

上陸に成功した両生類は、何という言葉を残すだろう。しかし、この一歩こそが私たち脊椎動物のその後の繁栄につながる偉大な一歩だったことは間違いない。

しかし、である。

脊椎動物の陸上進出は、本当にこのような勇気ある冒険者によってなされたのだろうか。

 ■
巨大オウムガイと6メートルの甲冑魚が支配する世界

古生代、ありとあらゆる生物が進化を遂げ、地球に広がる大海原は生命にあふれていた。多様な種が出現し、豊かな生態系を作りだしていたのである。

しかし、生態系というのは「食う・食われるの関係」である。傍目に眺めていれば、豊かな海に見えるかも知れないが、そこを生き抜くことはけっして簡単なことではない。

このころ、海を支配していたのは、巨大なオウムガイであった。魚たちは、オウムガイの餌食になっていたのである。

また魚の中にも、頭部や胸部を厚い骨の板で武装した甲冑魚と呼ばれる種類が出現した。

甲冑に身を包んだ、いかにも強そうな彼らの最大の武器は「あご」である。それまでの魚は、現在のヤツメウナギのようにあごを持たない魚であった。しかし、甲冑魚は力強いあごを持ち、捕えた魚をむしゃむしゃとかみ砕いていく。まさに敵なしである。

生態系の頂点に立った甲冑魚の中には、6メートルを超えるような巨大な体で悠々と泳ぐものもいたという。

栄枯盛衰を繰り返す生命の歴史の中で、やがてはサメのような大型の軟骨魚類が現れ、甲冑魚に代わって海の王者の地位を奪っていった。

海の中は、力が支配する弱肉強食の世界だったのである。


過酷な「汽水域」に追いやられた弱者たち

弱い魚たちは、どうしたのだろう。

食べられる一方の弱い魚たちは天敵から逃れるように、川の河口の汽水域に追いやられていく。海水と淡水が混じる汽水域は、浸透圧が異なるため、海に棲む天敵も追ってくることはできないのである。

しかし、海を棲みかとしていた魚たちにとって、そこは過酷な環境であった。

逆境を乗り越えて戦いに敗れ、追いやられた弱い魚たちは、過酷な環境である汽水域へと逃れ行く。しかし、そこは魚が生存することができない過酷な環境である。

幾たびも幾たびも挑戦しても、多くの魚たちは汽水域の環境に適応することができずに死滅していったはずである。

汽水域で最初に問題となるのは浸透圧である。

塩分濃度の濃い海で進化を遂げた生物の細胞は、海の中の塩分濃度と同程度の浸透圧になっている。もし、細胞の外側が海水よりも濃い塩分濃度であれば、細胞の中の水は細胞の外へと溶け出してしまう。そして、もし細胞の外側が薄い塩分濃度であれば、その塩分濃度を薄めるために、水が細胞の中へと侵入してきてしまうのである。

そこで魚たちは塩分濃度の薄い水が体内に入ってくることを防ぐために、うろこで身を守るようになった。さらには、外から入ってきた淡水を体外に排出し、体内の塩分濃度を一定にするために腎臓を発達させたのである。

 ■
「骨」は、汽水域で生きるために生み出された

それだけではない。海の中には生命活動を維持するためのカルシウムなどのミネラル分が豊富にあるが、汽水域ではミネラル分が不足してしまう。そこで魚たちは体内にミネラルを蓄積するための貯蔵施設を設けた。それが「骨」である。骨は体を維持するだけでなく、ミネラル分を蓄積するための器官でもあるのである。

こうして生まれたのが、骨の充実した「硬骨魚」である。

これだけの変化を起こすために、いったい、どれくらいの時が必要だったのだろう。いったい、どれくらいの世代を経たことだろう。世代を超えて何度も何度も挑戦していく中で、魚たちは逆境を乗り越え、祖先からの悲願であった汽水域へと進出を果たすのである。

 ==========================================================つづく

 

 

 

斎藤幸雄

「敗者」こそが生命史をつむいできた-2~陸上への進出は、海を追われた弱い魚の決死行

引き続き、生物学者の稲垣栄洋氏の記事「「敗者」こそが生命史をつむいできた」リンク より転載します。
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サケやマスの遡上は、古代の記憶に結び付いている?

しかし、支配者から逃れたはずの汽水域でさえも、彼らにとっては安住の地ではなかった。

強大な敵から逃れ、魚たちが手に入れた新天地となった汽水域。しかし、ここでは、新たな生態系が作りだされる。それは、強い魚が弱い魚をエサにする弱肉強食の世界である。

天敵から逃れてきた弱い魚たちではあるが、その中にも強い者、弱い者が存在する。そして、より強い魚が生態系の上位を陣取っていくのである。より弱い魚たちは、そこでも食べられる恐怖から逃れることはできないのだ。

迫害された弱い魚の中でも、さらに弱い魚は、より塩分濃度の薄い川の河口へと侵入を始める。もちろん、そこでも弱肉強食の世界は築かれる。

弱い魚の中でも、さらに弱い弱者中の弱者は、逃れても逃れても現れる天敵に追われながら、川の上流へと新天地を求めていくのである。

中には、同じ食われるのであれば、海も同じだとばかりに、再び海へと戻っていくものもあらわれた。サケやマスなどが、川を遡って産卵をするのは、彼らが淡水を起源とするからと考えられている。

浅瀬で泳ぎ回る敏捷性を発達させていた魚たちは、海に戻ってからも、サメなどから身を守る泳力を身につけていた。そのため、海を棲みかとすることができたのである。

こうして、汽水域に追いやられて進化を遂げた硬骨魚の中から、川や湖を棲みかとする淡水魚と、海で暮らす海水魚とが分かれていくのである。


「大きくてのろま」だからこそ、陸に上がらざるを得なかった

両生類の祖先とされるのは、大型の魚類である。

より弱い立場にある小型の魚類は、敏捷性を発達させ、高い泳力を獲得していった。

一方、元々大型の魚類であった両生類の祖先は、敏捷性を発達させていない。のんびりと泳ぐのろまな魚である。そのため、泳力に優れた新しい魚たちに棲みかを奪われていったと考えられている。そして、浅瀬へと追いやられていくのだ。

大型の魚類は浅瀬を泳ぐことができない。しかし、大きな体で力強くヒレを動かすことはできる。そこで、水底を歩いて進むように、ヒレが足のように進化していったと考えられている。

そして、浅瀬から次第に陸の上へと活路を見出していくのである。

もちろん、両生類の祖先がいきなり上陸して、すぐに陸上生活を始めたわけではない。

ふだんは水中で暮らしていても、水位が低くなると水辺を移動したり、水中にエサがないときには、水辺でエサを求めたりしたのだろう。敵に襲われたときには、安全な陸上へと逃げたのかも知れない。

こうして、陸上という環境を少しずつ利用しながら、次第に水中と陸上を行き来できる両生類へと進化を遂げていくのである。


「最弱トーナメント」優勝者が我々の先祖だった!

陸上という新天地を求めた魚は、どんな魚だっただろう。

その祖先は、海での生存競争に敗れ、汽水域へと進出した魚たちであった。

そこで硬骨魚類へと進化を遂げた魚たちの中で、より弱いものは川へと侵入した。そして、その中でもさらに弱い魚たちは上流へと追いやられた。まさに、最弱を決定するトーナメント戦のようなものである。

その戦いに負け続けた魚が、川の上流を棲みかとした。

川を棲みかとした魚たちの中で、小さな魚は俊敏な泳力を身につけた。一方、早く泳ぐことのできない、のろまな大型の魚類は水のない浅瀬へと追いやられていくのである。

ところが、である。このもっとも追いやられた魚が、ついに上陸を果たし、両生類へと進化を遂げる。そして、爬虫類や恐竜、鳥類、哺乳類の祖先となるのだから、自然界というのは面白い。

「歴史は勝者によって作られる」と古人は言った。

生命の歴史はどうだろう。

生命の歴史を振り返ってみれば、進化を作りだしてきた者は、追いやられ、迫害された弱者たちであった。新しい時代は常に敗者によって作られるのである。


進化はやっぱり、逆境からしか生まれない?

弱き魚を汽水域へと追いやり、広い海を我が物顔に支配したのは、サメの仲間であった。

サメはどうだろう。現在、サメは、古い時代の魚類の特徴を今に残す「生きた化石」とされている。

サメは進化した硬骨魚類のような鱗がない。サメ肌と言われるような固い皮で覆われているだけだ。そして、ミネラルを蓄積するような高度な仕組みの骨がない。そのため、汽水域で進化した魚が硬骨魚類と呼ばれているのに対して、サメやエイの仲間は軟骨魚類と呼ばれている。進化した硬骨魚類は、多種多様に進化を遂げ、川や湖、海とあらゆるところへと分布を広げていった。現在では、サメやエイを除く魚類は、ほとんどが硬骨魚類である。

弱者であった魚は、川という新天地を求め、そしてその後、大いに進化をしていった。しかし、無敵の王者であったサメは、自らを変える必要がない。そして、現在でもその古い型を維持しているのだ。

何も、進化しなければダメなわけではない。サメもまた、現在でも成功している魚類である。しかし、逆境に追い込まれることが、新たな進化を生みだすことは間違いないようである。

 =========================================================以上

 

 

 

 

斎藤幸雄

2019年6月26日 (水)

蛍(ホタル)はなぜ光るの?その発光原理とは?

東洋人と西洋人では五感での捉え方はどうだろうか?
ここで、東洋人らしい感覚での捉え方をご紹介しよう。私の知人(アメリカ人)が東京のあるホテルに夕食に誘い、ホタル鑑賞させたことがある。

 近寄ってきたホタルに対して、そのアメリカ人は手で払おうとした。そこで、私はホタルは日本人にとって神秘的で心が和む生き物だと説明すると首を傾げたのである。どうもアメリカ人には、お尻の光るハエ程度に感じたようである。現にアメリカではホタルをファイヤーフライと呼ぶらしいのです。(324827)

東洋人と西洋人で蛍光色を発光する蛍に対する捉え方が異なりますが、自然界に存在する対象そのものを無視(虫)できないのが日本人の捉え方。
万物に対する畏敬の念が特に、日本人にはあります。
美しい、綺麗だと感謝の気持ちで虫たちとも接します。

そもそも何故 蛍は、電気もないのに明るく発光できるのだろうか?
まさか、太陽光パネルのように体内で電気に変換しているのだろうか?
なんらかの化学反応なのだろうか?
しかしながら、生命体が発光する事の不思議さは、蛍だけに限らずアンコウやクラゲ、光が届かない深海生物などにも見られます。

以下、リンク より転載。

ホタルには、腹部先端の部分に"発光器"があるものが多く、そこで"ルシフェリン"という発光物質と"ルシフェラーゼ"と呼ばれる酸素、さらに生物共通のエネルギー源である"ATP(アデノシン三リン酸)"が結びつくことで「ルシフェリン-AMP」という物質になります。

この「ルシフェリン-AMP」が空気中の酸素と反応すると、発光体である「オキシルシフェリン」が生成され、体が光るしくみになっています(※光らないホタルもいます)。

ルシフェラーゼの性質はホタルの種類によって少しずつ違ってきます。そのため、黄緑、黄色、オレンジ色までホタルの光の色はさまざまだそう。

光るホタルの代表といえば「ゲンジボタル」と「ヘイケボタル」。
 卵から幼虫、蛹(さなぎ)、成虫になるまで一生を通して光ります。幼虫や蛹(さなぎ)の時は警戒行動として光るといわれていますが、成虫が光るのは求愛行動など、コミュニケーションのためだといわれています。
また、オス、メスを問わず光ります。

 

 

 

 

日出・真田十勇士 

2019年6月22日 (土)

根を切るともっと根が出る仕組みを解明

自然界は、相似形で構成されていると言われている。日本の盆栽は10mの大木を0.1%に縮小する(自然の木々をミニチア版にする)のであるが、どんな原理で創れるのか?
不思議に思っていた。そのメカニズムが解明された。

>植物にとって根の傷害は脱水という形で直ちに地上部に影響してしまう緊急事態であり、根を切られた植物はできるだけ早く根を再生しようとする性質があります。
>たとえば日本伝統の園芸芸術、盆栽作りでは慎重に根の剪定(根切り)を行います。
>根切りされた植物は、水や養分を効率よく吸収できる若い根を限られた空間(鉢)で再生することで、健全かつ小さな植物である盆栽になります。

緊急事態に対応する為に遺伝子情報を制御し、外部環境に適応するのが生命体なのであろう。

「根を切るともっと根が出る仕組みを解明 
やっぱり植物はたくましい!」
リンク
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【植物のたくましさ】
「雑草は切っても切っても生えてくる」ということはひとつの植物のたくましさでしょう。これは頂芽優性と呼ばれる現象で、一番先端にある茎頂を失うと、その下で休眠している腋の茎頂が発達を開始し、新しい芽や葉が生えてくるのです。
また根が切断されても枯死する前に植物体が根を急速に再生させ、その場で固着生活を継続させる。

前述の頂芽優性については 近年、頂芽優性を制御しているのはストリゴラクトンという新しい植物ホルモンだということもわかってきました。
一方、切断された根がいかに再生してくるのかということについてはあまり研究がありませんでした。

私たちはこの問題に取り組み、傷害による植物根の再生過程に関わる因子が植物ホルモンのオーキシンであること、オーキシン合成の誘導、さらにオーキシンの極性輸送によって植物の根は再生することを明らかにしました。

シロイヌナズナはシャーレの寒天培地中で、生育させることができるモデル植物です。
ある日、根を途中で切断したシロイヌナズナを観察していました。そのシロイヌナズナは突然変異体で主根は伸びるけれども側根は出てこないはずだったのですが、あろうことか側根がフサフサと野生型と同じぐらい出ていたのです。

使った突然変異体はオーキシン信号伝達経路に異常があるmsg2/iaa19という変異体だったのですが、同様の経路に異常がある変異体で試験しても、本来、側根が出ないはずなのに側根が出てくるものがありました。
そこで慎重に無傷コントロールと根切りした野生型植物を4日後に比較すると、わずかですが確かに側根が増えていることがわかりました。

さらに興味深いことに、切断した植物の側根はコントロールより長い、つまり成長が早いということもわかりました。
根の総延長を測定するとコントロールと根切りした植物はなんと同じだったのです。
地上部と根の量は植物種で一定であるというshoot-root-ratioという現象が古くから知られています。もしかしたら根切りした植物は根の成長を促進させて、shoot-root-ratioを回復させているのかもしれません。側根数が増える現象をRoot-Cutting induced lateral root Number
(RCN)と呼び、側根の成長を促進する現象をRoot-Cutting induced lateral root Growth
(RCG)と名付けました。今回の論文発表では側根数が増えるRCNについてそのメカニズムを明らかにしました。

【エビデンスから仮説を立て、実験による検証を行う】
自発的な側根の形成にはオーキシンが重要な働きを持っていることが詳しく判っているので、私たちは根の再生にオーキシンがどのように関わっているのか? というアプローチを行いました。

(中略)

根切りがYUCCA9遺伝子を誘導することで、根のオーキシン量を増やしていると予想されました。
根のオーキシン量を測定したところ、根切りによって実際に増加していること、yucca9変異体ではそのような増加は見られないことを確認し、YUCCA9遺伝子が根切り応答に必要な遺伝子であるということが明らかになりました。

一方、オーキシン合成を阻害する試薬、YUCASINとNPAを同時投与すると側根はまったくできないどころか、根切りでも側根の発生は抑制されました。さらにオーキシンの極性輸送に関する変異体にYUCASINを投与すると、野生型より顕著に側根が減少すること、根切りによってオーキシンの極性輸送体遺伝子の発現は上昇することから、根切りによるRCNにはオーキシン合成の促進と同時に極性輸送が必要であると結論付けられました。
(後略)

 

 

 

 

岸良造

2019年6月14日 (金)

脳サイズ進化の謎 「大脳化」

人類に特有な進化の現象は「大脳化(身体の割合より大きな脳を持っている)」と思っていましたが、この「大脳化」は哺乳類と鳥類の特徴との事のようです。
>なぜ哺乳類と鳥類は大きな脳を進化させることができたのか?

との研究論文が有りましたので転載します
リンク
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【脳サイズ進化の謎】
ヒトを含む哺乳類と鳥類は、同じ大きさの魚類や両生類と比べておよそ10倍~20倍大きな脳を持っています。哺乳類と鳥類のなかに高い学習能力や社会性を持つ動物が多く見られるのは、このように大きな脳を持っていることと関係しています。
体のわりに脳が大きく進化する現象は「大脳化」と呼ばれています。大脳化は高度な認知能力とそれに付随するさまざまな行動を可能とするため、いろいろな環境下で生存・繁殖上の利益をもたらすと考えられています。こういった適応的側面だけを考えれば、すべての脊椎動物に大脳化の機会があったと考えるのが自然です。しかし、大脳化はごく少数の例外を除いて哺乳類と鳥類でしか生じていません。なぜ、哺乳類と鳥類だけが大脳化に成功したのでしょうか?私たちはこの謎に迫りました。

【アロメトリーと進化的制約】
体の大きさはさまざまな生命の営みと密接な関係を持っています。体重をx 、対となる指標をy とすると
y=ax
b 

の式で寿命・行動圏・代謝の速さなど、さまざまな生命活動のサイズ依存性を記述することができます。この関係をアロメトリーと呼びます。

脳重量はアロメトリーを示す典型的な例です。この場合、x は体重、y は脳重、係数a は体重が仮に1gであったとしたときの脳重、指数b は一定の体重増加に対する脳重(以下、脳サイズとします)の増加率をそれぞれ表します。これまで古今東西の生物学者が、さまざまな動物で脳サイズのアロメトリーを記述してきました。その結果、どんな分類群で脳サイズのアロメトリーを求めても指数b はおよそ0.67から0.75の間の値を取ることがわかりました。

動物の住む環境が変わって大きな脳サイズが有利となる状況が生まれたとしましょう。この場合、自然選択の対象は脳サイズですから、体の大きさを変えることなく脳の大きさだけが進化するのが自然な帰結に思えます。ところが、実際はそうなっていません。脳サイズのアロメトリー指数がどんな動物でも似た値であることは、脳サイズ進化には決まったやり方があって、動物の脳サイズが進化するときは大抵体サイズも一定の割合で一緒に進化しているということを意味しています。

この現象を適応とは逆の視点から考察すると、もし大きな脳サイズが適応的となる状況が生じても、大きな体を進化させることのできない理由が他にある場合、脳サイズは進化しなかったのだろうと考えることができます。このように、適応進化を制限する要因は「進化的制約」と呼ばれています。

【哺乳類と鳥類だけに生じた制約の打破】
このデータを使って、まず私たちはアロメトリーがすべての脊椎動物で共通して見られることを示しました。
(中略)
次に、私たちは同じ種内の性成熟した個体間における体サイズと脳サイズの関係を鳥類・哺乳類とそれ以外の分類群で比較しました。その結果、鳥類と哺乳類では体の大きさに関わらず成体の脳サイズはおおよそ一定であることと対照的に、魚類では大きな成体は小さな成体よりも脳サイズが大きい傾向にあることがわかりました。また、ここには示しませんが、両生類・爬虫類・軟骨魚類は魚類と同じパターンを示していました。

この発見はアロメトリーによる制約が哺乳類と鳥類だけで弱まったという仮説と矛盾しません。また、このパターンを生物学的に解釈すると、鳥類と哺乳類の脳は体と独立に発達している一方で、他の脊椎動物では脳と体が一緒に発達していると言えます。
それでは、哺乳類と鳥類はどのように脳の成長と体の成長を分離させたのでしょうか?

【大脳化を可能とした特別な脳の発達方法】
私たちは再び文献調査によって、受精した胚が成体になるまでのさまざまな発育段階における脳サイズと体サイズのデータを8種類の脊椎動物で収集し、脳と体の発達過程を比較検討しました。その結果、
今回調べたすべての動物において、成長を始めた胚は一定のサイズになるまで脳サイズを急激に成長させ(下図破線部)、その後脳サイズの成長を減衰すると同時に体サイズの成長を加速させて成体になっていることがわかりました
また、哺乳類と鳥類は急激に脳が発達する期間を魚と比べて大きく延長していました。
(中略)
哺乳類と鳥類に見られる脳の発達方法がどうして魚類・爬虫類・両生類・軟骨魚類では進化しなかったかについて考えてみましょう。
これは推測になりますが、私は脳が発育に膨大なエネルギーを必要とすることと関係していると考えています。脊椎動物の胚発生初期に見られる爆発的な脳の発達には断続的な栄養供給が必要です。
これを長期間持続するため、哺乳類と鳥類は他の脊椎動物よりも長い期間にわたって子を養育します。

つまり、哺乳類や鳥類の養育は脳の発育に対する投資であると考えることができます。この仮説が正しければ、私たちを含む哺乳類が脊椎動物のなかで例外的に大きな脳を持っているのは、哺乳類の共通祖先が精力的に子育てする形質を進化させたことと関係があるのかもしれません。
__________________________

 

 

 

岸良造

2019年6月 3日 (月)

細胞核やDNAはウィルス由来か?旧来のウィルス観を覆す。巨大ウィルスの発見

今年2月、アメーバに感染する新規巨大ウイルスが発見された。メドゥーサウイルスと名づけられたこの巨大ウイルスは、全セットのヒストン遺伝子をゲノム内に保持しており、特異な粒子形態とゲノム組成から新たな「科」に属することが明らかになった。ヒストンは真核生物がDNAを折り畳んで核内に収納するために必須な5種類のタンパク質で、ヒストン遺伝子全セットを保持するウイルスはメドゥーサウイルスが初めて。

新規巨大ウイルスはアメーバを宿主として増殖するが、感染過程で一部のアメーバ細胞が厚い膜を被り休眠状態に入る(シスト化する)ことが明らかになった。これが、見たものを石に変える能力を持つギリシア神話の怪物「メドゥーサ」をイメージさせることから、この新規巨大ウイルスはメドゥーサウイルスと名づけられた。
メドゥーサウイルスは、粒子径が260ナノメートル、ゲノム長が38万塩基対とこれまでに記録されている巨大ウイルスの中では小型の巨大ウイルス。しかし、クライオ電顕単粒子解析により、先端が球状のスパイクでウイルス粒子表面が覆われているなど、独特の粒子形態が浮き彫りになった。ゲノムの遺伝子組成にも特徴があり、ゲノム内の461個のタンパク質遺伝子のうち61%(279個)が、データベースに類似した遺伝子がない新規遺伝子であることも判明した。また、感染過程の観察から、ウイルスゲノムの複製がアメーバの細胞核内で完了していることも伺え、これまでに報告されてきた巨大ウイルスとは様相を異にしている。

メドゥーサウイルスのゲノムで最も際立った特徴は、ヒストン遺伝子を全セット(ヒストンH1, H2A, H2B, H3, H4の5種類)保持していることだ。
また、ウイルス粒子からもウイルス由来のヒストンタンパク質が検出された。分子系統解析の結果はさらに興味深いもので、これらのヒストン遺伝子はその進化の枝が、真核生物の系統樹の根っこの部分から派生しており、その起源が真核生物の共通祖先よりも古いことも明らかになった。つまり、ウイルスのヒストン遺伝子は、真核生物の特定の系統から獲得されたものではないのである。このことは、真核生物の先祖がヒストン遺伝子を古代のウイルスから獲得した可能性を示唆している。同様の進化シナリオがメドゥーサウイルスのDNA複製酵素遺伝子の解析からも浮き彫りになった。
さらに、アメーバとメドゥーサウイルスのゲノム比較から、進化の過程で数多くの遺伝子の受け渡し(遺伝子水平移動)が両者の間で起こっていたことも明らかになった。遺伝子の受け渡しの方向は、アメーバからウイルス、ウイルスからアメーバへの両方向の事例があり、アメーバがウイルスから受け取った遺伝子の中にはウイルスの殻を作るためカプシドタンパク質遺伝子もあった。

既に今世紀初頭、生物学の常識を覆すウイルスが発見されている。ミミウイルスと呼ばれるそのウイルスは、単細胞真核生物(原生生物)であるアメーバを宿主として増殖する。粒子サイズとゲノム長で数多くの単細胞生物を凌ぐ大きさと複雑さを誇るミミウイルスの発見は、「ウイルスは小さくて単純なものだ」という生物学者の固定観念を覆し、大きなインパクトを与えた。ミミウイルスの発見を端緒に、世界中の研究者が巨大ウイルスハンティングを開始し、パンドラウイルス、ピソウイルス、マルセイユウイルスなど様々な巨大ウイルスの発見が相次ぎ、日本では、トーキョーウイルス(マルセイユウイルスの仲間)やミミウイルス・シラコマエ(ミミウイルスの仲間)などの発見がなされた。

ミミウイルスはアミノ酸をtRNAに結合するアミノアシルtRNA合成酵素など、リボソーム以外の翻訳に関わる分子の遺伝子をもっていることが明らかになった。通常のウイルスが遺伝情報の翻訳を宿主細胞に委ねているのに対し、ミミウイルスは自己複製を完全にアメーバに頼っているわけではなく、通常のウイルスよりも高い自立性を保持していると言える。高度な遺伝情報を保持し、生物の重要な特徴である翻訳系を部分的にでも保持しているミミウイルスを、生きものではないと言い切るのは難しい。

こうした巨大ウイルスからは、その生き生きとした多様な「生態」が伺え、その結果、ウイルスがDNAを発明したのではないか、細胞核はウイルス由来ではないか等の仮説も提唱されている。

 

 

 

北村浩司

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