« 「敗者」こそが生命史をつむいできた-2~陸上への進出は、海を追われた弱い魚の決死行 | トップページ | 海から川や湖へ!魚の淡水進出を支えた鍵遺伝子の発見 ― DHAを自分で合成すれば、海から離れても生きられる ― »

2019年6月28日 (金)

「敗者」こそが生命史をつむいできた-1~汽水域に追い詰められた弱い魚たち

「敗者」というと、戦いに敗れた弱い存在、みじめな存在だと考えてしまうが、38億年に及ぶ生命の歴史の中では、むしろ強者こそが先に滅び、敗者のほうが生き残ってきたのが事実です。

以下、生物学者の稲垣栄洋氏の記事「「敗者」こそが生命史をつむいできた」リンク より転載します。
 ===============================================================
■偉大なる一歩は本当に「偉大なる挑戦」だったのか?

海の中で生まれ、育まれてきた生物。その中で、最初に「上陸」を果たした脊椎動物は原始両生類である。

懸命に体重を支え、ゆっくりとだが、力強く手足を動かし陸地に上がっていく。その目は、まさに未知のフロンティアを目指す意志にみなぎっている。

人類で初めて月面に降り立った宇宙飛行士のアームストロングは「これは人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍である」という言葉を発した。

上陸に成功した両生類は、何という言葉を残すだろう。しかし、この一歩こそが私たち脊椎動物のその後の繁栄につながる偉大な一歩だったことは間違いない。

しかし、である。

脊椎動物の陸上進出は、本当にこのような勇気ある冒険者によってなされたのだろうか。

 ■
巨大オウムガイと6メートルの甲冑魚が支配する世界

古生代、ありとあらゆる生物が進化を遂げ、地球に広がる大海原は生命にあふれていた。多様な種が出現し、豊かな生態系を作りだしていたのである。

しかし、生態系というのは「食う・食われるの関係」である。傍目に眺めていれば、豊かな海に見えるかも知れないが、そこを生き抜くことはけっして簡単なことではない。

このころ、海を支配していたのは、巨大なオウムガイであった。魚たちは、オウムガイの餌食になっていたのである。

また魚の中にも、頭部や胸部を厚い骨の板で武装した甲冑魚と呼ばれる種類が出現した。

甲冑に身を包んだ、いかにも強そうな彼らの最大の武器は「あご」である。それまでの魚は、現在のヤツメウナギのようにあごを持たない魚であった。しかし、甲冑魚は力強いあごを持ち、捕えた魚をむしゃむしゃとかみ砕いていく。まさに敵なしである。

生態系の頂点に立った甲冑魚の中には、6メートルを超えるような巨大な体で悠々と泳ぐものもいたという。

栄枯盛衰を繰り返す生命の歴史の中で、やがてはサメのような大型の軟骨魚類が現れ、甲冑魚に代わって海の王者の地位を奪っていった。

海の中は、力が支配する弱肉強食の世界だったのである。


過酷な「汽水域」に追いやられた弱者たち

弱い魚たちは、どうしたのだろう。

食べられる一方の弱い魚たちは天敵から逃れるように、川の河口の汽水域に追いやられていく。海水と淡水が混じる汽水域は、浸透圧が異なるため、海に棲む天敵も追ってくることはできないのである。

しかし、海を棲みかとしていた魚たちにとって、そこは過酷な環境であった。

逆境を乗り越えて戦いに敗れ、追いやられた弱い魚たちは、過酷な環境である汽水域へと逃れ行く。しかし、そこは魚が生存することができない過酷な環境である。

幾たびも幾たびも挑戦しても、多くの魚たちは汽水域の環境に適応することができずに死滅していったはずである。

汽水域で最初に問題となるのは浸透圧である。

塩分濃度の濃い海で進化を遂げた生物の細胞は、海の中の塩分濃度と同程度の浸透圧になっている。もし、細胞の外側が海水よりも濃い塩分濃度であれば、細胞の中の水は細胞の外へと溶け出してしまう。そして、もし細胞の外側が薄い塩分濃度であれば、その塩分濃度を薄めるために、水が細胞の中へと侵入してきてしまうのである。

そこで魚たちは塩分濃度の薄い水が体内に入ってくることを防ぐために、うろこで身を守るようになった。さらには、外から入ってきた淡水を体外に排出し、体内の塩分濃度を一定にするために腎臓を発達させたのである。

 ■
「骨」は、汽水域で生きるために生み出された

それだけではない。海の中には生命活動を維持するためのカルシウムなどのミネラル分が豊富にあるが、汽水域ではミネラル分が不足してしまう。そこで魚たちは体内にミネラルを蓄積するための貯蔵施設を設けた。それが「骨」である。骨は体を維持するだけでなく、ミネラル分を蓄積するための器官でもあるのである。

こうして生まれたのが、骨の充実した「硬骨魚」である。

これだけの変化を起こすために、いったい、どれくらいの時が必要だったのだろう。いったい、どれくらいの世代を経たことだろう。世代を超えて何度も何度も挑戦していく中で、魚たちは逆境を乗り越え、祖先からの悲願であった汽水域へと進出を果たすのである。

 ==========================================================つづく

 

 

 

斎藤幸雄

« 「敗者」こそが生命史をつむいできた-2~陸上への進出は、海を追われた弱い魚の決死行 | トップページ | 海から川や湖へ!魚の淡水進出を支えた鍵遺伝子の発見 ― DHAを自分で合成すれば、海から離れても生きられる ― »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« 「敗者」こそが生命史をつむいできた-2~陸上への進出は、海を追われた弱い魚の決死行 | トップページ | 海から川や湖へ!魚の淡水進出を支えた鍵遺伝子の発見 ― DHAを自分で合成すれば、海から離れても生きられる ― »

Ranking

  • にほんブログ村 科学ブログ 生物学・生物科学へ お勧めサイトランキングへ
2020年10月
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31

カウンター

最近のトラックバック

無料ブログはココログ