« 魚から四肢動物へ 見えてきた上陸前後の変化 | トップページ | 起源生命の環境に対する適応戦略~集団化⇒「接合」により「分裂」機能をもつことになった!? »

2019年7月30日 (火)

はじめて明らかにされた“メスとオス”のはじまり

安定→外圧の変化→変異度の高い雄の誕生か?

リンク

論文より引用

概要
卵と精子をつくる“メスとオス”の性 (sex)
を決定する遺伝子がいつ、どのように誕生したかはこれまで明らかでなかった。今回我々は卵生殖するボルボックスの仲間(プレオドリナ)で、オス(精子をつくる性)を決定する遺伝子(OTOKOGI)を発見し、その起源を明らかにした。その結果、“メス”が性の原型であり、”オス”は性の派生型であることが示唆された。

解説
(1)これまでの研究でわかっていた点
生物の生殖は、“性”が誕生して以来、オスとメスの配偶子が同じ大きさの同型配偶(単細胞藻類、粘菌類など)、メスの配偶子が少し大きな異型配偶(ハネモなど)、そして更に大型で運動能力のない「卵」に小型で運動能力のある「精子」が受精する卵生殖(ボルボックス、高等動植物など)へと進化したと古くから推測されていた。しかし、卵と精子をつくるメスとオスの性が同型配偶のどのような交配型(性)から進化したかは全く不明であった。これは高等動物や陸上植物に近縁な生物で同型配偶のものが現存しないことが原因とも考えられる。緑藻類のボルボックスやプレオドリナのような群体性ボルボックス目(注1)の生物では同型配偶から卵生殖まで様々な様式の有性生殖が知られており、有性生殖の進化研究のモデル生物群と我々は考えている。群体性ボルボックス目に極めて近縁な同型配偶クラミドモナスで性の分子遺伝学的研究が進展していることも、これらの生物群の利点である。クラミドモナスではマイナス交配型がプラスに対して優性で、マイナス交配型は性特異的なMID遺伝子によって決定されており、MID遺伝子の存在でプラスの性はマイナスに転換する(Ferris
& Goodenough, 1977, Genetics 146,
859-869.)。従って、クラミドモナスのプラス型(注2)(MID遺伝子を欠く)が性(sex)の原型であり、マイナス型(注2)の性はMID
遺伝子によってプラス型から派生したものと考えられる。また、MIDのような交配型に特異的な数個の遺伝子は交叉による組換えが起こらない原始的な性染色体構造を構成している(Ferris
&, Goodenough 1994, Cell 76, 1135-1145.)。しかし、性関連の遺伝子は進化速度が速いためか(Ferris et
al. 1997, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94,
8634-8639.)、メスとオスの配偶子(卵・精子)が分化した群体性ボルボックス目のボルボックス・プレオドリナ等では、クラミドモナスに近縁と考えられるにもかかわらず、性特異的な遺伝子はこれまでにまったく知られていなかった。従って、クラミドモナスのプラス・マイナスのどちらの性がメスまたはオスに進化したのかは不明であった。

(2)この研究が新しく明らかにしようとした点
従って、ボルボックス・プレオドリナ等の性特異的な遺伝子の同定とその解析が、同型配偶と卵生殖の進化的な関連(特に卵生殖におけるメスとオスの性と同型配偶における交配型との関係)および卵生殖を生み出した性染色体構造の進化的基盤の解明に必須と考えられた。

(3)そのために新しく開発した方法、機材等
メスとオスの性が遺伝的に決定されており(雌雄異株)、オス株だけで容易に大量精子形成をする群体性ボルボックス目の材料を探索した。その結果、最近神奈川県相模湖・津久井湖から採取したプレオドリナの新種Pleodorina
starrii(Nozaki et al. J. Phycol. 42,
1072-1080)の新規培養株が適切であると考えられた。独自に開発したMID遺伝子の縮重プライマー(注3)を用いて、様々な条件検討の結果、精子形成を誘導したPleodorina
starriiオス株培養液からオス特異的遺伝子“OTOKOGI”(論文中ではPlestMID)を単離した。

(4)この研究で得られた結果、知見
DNAゲルブロット解析(注4)の結果、PlestMID遺伝子はオスのゲノム中だけに存在し、本遺伝子の発現解析は精子形成が誘導された場合に強く発現することが明らかになった。抗PlestMID抗体を用いた蛍光染色はPlestMIDタンパクが成熟した精子の核に局在することを明らかにした。従って、PlestMIDは精子の成熟や行動にも関与していることが推測された。系統解析ではPlestMIDがクラミドモナスのMID遺伝子と共通の祖先をもち、この系統の祖先でMIDによる性決定様式が誕生し、MID
遺伝子をもつ同型配偶のマイナスの優性交配型(注5)からオスが誕生したと結論された。即ち、配偶子の進化という視点で性(sex)の原型はメスであり、オスはMIDのような遺伝子をもつことで原型から派生している性であると理解される。

(5)研究の波及効果
生物学の一般的な教科書で示されている同型配偶から卵生殖への進化がはじめて遺伝子レベルのデータで説明され、オスが同型配偶の優性交配型から進化したことが明らかになった。本研究におけるオス特異的遺伝子の同定はこれまでに全く未開拓であったメスとオスの配偶子が分化した群体性ボルボックス目における性の進化生物学的研究の発端となるものと思われる。即ち、群体性ボルボックス目における性特異的遺伝子を目印にした性染色体領域の解読および性特異的遺伝子の機能解析を主軸とする新しい進化生物学がこれから始まるのである。これにより、同型配偶から卵生殖への進化の過程で性染色体領域の性特異的な遺伝子がどのように変化したかが明らかになり、メスとオスの起源が遺伝子レベルで具体的に解明されるものと思われる。

(6)今後の課題
すでに我々はPleodorina
stariiオス株およびメス株のBACライブラリー(注6)を作製している最中であり、このライブラリーを用いてPlestMIDを目印に性染色体領域を解読する予定である。また、ボルボックス科ではメスとオスの配偶子の分化の進化段階がプレオドリナと異なるもの(ボルボックス、パンドリナ等)があり、これらの生物を用いた性特異的遺伝子の探索による同様の研究も配偶子進化という点で必要となってくる。

 

 

 

長曾我部幸隆

« 魚から四肢動物へ 見えてきた上陸前後の変化 | トップページ | 起源生命の環境に対する適応戦略~集団化⇒「接合」により「分裂」機能をもつことになった!? »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« 魚から四肢動物へ 見えてきた上陸前後の変化 | トップページ | 起源生命の環境に対する適応戦略~集団化⇒「接合」により「分裂」機能をもつことになった!? »

Ranking

  • にほんブログ村 科学ブログ 生物学・生物科学へ お勧めサイトランキングへ
2020年8月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31          

カウンター

最近のトラックバック

無料ブログはココログ