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2019年8月27日 (火)

眼も心臓も、イカの体は驚くほどハイスペックだった~1

 私たちが日ごろ食べているもののほとんどは生物である。そして、多くの食材の直系の祖先は私たち人類より先に地球上に現れている。なぜヒトは「その食材」を食べることになったのか。その疑問を解くカギは、この地球上でヒトと生物がたどった進化にある。ふだん何気なく食べているさまざまな食材を、これまでにない「進化の視点」で追っていく。それぞれの食材に隠された生物進化のドラマとは・・・。

生物進化を食べる(第3話)軟体動物篇
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 日本のプロ野球チームのマスコットはほぼすべて脊椎動物がモデルである。幻獣のようなマスコットにも脊椎くらいはありそうだ。やはり、ヒトと体のつくりが似ており眼が2つあると、マスコットとして感情を移入しやすいと判断されたのであろう。いくらヒトと系統的に近くても、手足や眼が見当たらないウニではかなり強引なデザインにしないかぎり擬人化は困難である。

 一方、各地のゆるキャラまで含めれば、脊椎動物に次いで擬人化されやすいのは、タコ・イカ・カニである。生物学的に落ち着いて見れば、ヒトの体のつくりとはまったく異なるが、やはり2つの眼の存在が「顔のパーツ」として認識されることが大きい。また、カニにはハサミ、イカには長い一対の触腕があり、ヒトの手の代わりにするのにちょうどよい。

 ただし、実際のカニの眼をよく見ると、昆虫などと同じ複眼であり、ヒトの眼とはだいぶ違う印象だ。一方、イカの眼はつぶらな瞳があるようにも見え、より親しみやすさがあるといえる。

 実は、イカの眼はレンズでピント調節をする「カメラ眼」であり、ヒトと同じタイプである。レンズがあるために、つぶらな瞳に見えるのだ。カメラ眼は、多くの光を集めて対象物をより高解像度で見るという利点があるのだが、では、イカの高性能な光受容器は、どのように発達したのだろうか。

〇 祖先を求め「大爆発」期へ、だが姿ははっきりしない・・・

 その経緯は、前回の第2話「棘皮動物篇」でも紹介した、約5億4000年前の「カンブリア紀の大爆発」にさかのぼる。カンブリア紀の大爆発では実にさまざまな動物の原型が登場したが、別の視点で見れば生存競争が激化した時代だったともいえる。現在までに分かっている限りでは、カンブリア紀の大爆発以前の「エディアカラ生物群」とよばれる6億年ほど前の生物には、積極的に自分で動いて餌を探す体制のものはあまりいなかったと考えられている。

 しかし、カンブリア紀の大爆発では、甲羅や殻を発達させた動物が増える。と同時に、運動できる体のつくり、すなわち筋肉を発達させた動物も激増した。殻で天敵から身を守るか、あるいは積極的に餌を捕らえに行くか。すなわち「食うか食われるか」の世界が始まったのだ。

 そして、「攻撃は最大の防御」とばかりに、運動性能をさらに向上させ、獲物(あるいは天敵)をより鮮明に認識するために眼を発達させた動物が覇者になっていった。前回登場した「アノマロカリス」はその典型例である。カンブリア紀の大爆発は、眼という感覚器の発達によって加速されたと考える研究者もいるくらいである。

 現在もイカが生き残っているということは、イカの祖先もおそらくはカンブリア紀の大爆発の「攻撃は最大の防御」の流れに乗ったのだろう。ただし、カンブリア紀のイカの祖先の姿ははっきりしない。殻の化石は残っているものの、中身の化石がないのである。それはイカと近縁で、カンブリア紀以降に大繁栄するアンモナイトも同様である。世界中で大量に発掘されるが、殻から顔や体を出しているようなイラストはあくまで想像図であって、化石として残っているのは殻だけだ。


〇 「殻を体の内部にしまい込む」というイカの進化

 現在、私たちが食べているイカの系統的な位置は、大きい分類では「冠輪動物」であり、その中の「軟体動物」ということになる。軟体動物には貝類やナメクジなども含まれるが、その中でもイカは「頭足類」というかなり高度に進化したグループに入る。

 しかし、現在のイカには近縁のアンモナイトと違って殻がない。殻はどこにいってしまったのだろうか。実は、イカは殻を体内に隠し持っているのだ。紋甲イカなどを捌いているとプラスチック製のヤスリのような構造物が出てくる。物質としては炭酸カルシウムで、まさに貝殻そのものである。つまり、それは祖先の殻の名残である。インコなどのカルシウム源として与えている人も多いだろう。

 では、イカの祖先は殻をいつごろ内部にしまい込んだのかというと、約2億年前の中生代三畳紀に登場した「べレムナイト」からといわれている。保存状態のよいべレムナイトの一種の化石を見ると、ほとんど現在のイカと変わらないように見える。

 ともあれ、殻を内に秘めたイカの仲間の一部は、恐竜大絶滅の時代を生き抜いて、初登場から現在まで数億年にわたって生きのびている。中生代に大繁栄したにもかかわらず、6600万年前の白亜紀末に完全に絶滅してしまったアンモナイトとは対照的である。運もあるだろうが、やはり生存に有利なさまざまな形質を試行錯誤してきたことが大きいだろう。そのひとつが、イカのカメラ眼であるといえる。

 

 

 

津田大照

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