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2019年8月10日 (土)

眼も心臓も、イカの体は驚くほどハイスペックだった

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 ただし、実際のカニの眼をよく見ると、昆虫などと同じ複眼であり、ヒトの眼とはだいぶ違う印象だ。一方、イカの眼はつぶらな瞳があるようにも見え、より親しみやすさがあるといえる。

 実は、イカの眼はレンズでピント調節をする「カメラ眼」であり、ヒトと同じタイプである。レンズがあるために、つぶらな瞳に見えるのだ。カメラ眼は、多くの光を集めて対象物をより高解像度で見るという利点があるのだが、では、イカの高性能な光受容器は、どのように発達したのだろうか。

祖先を求め「大爆発」期へ、だが姿ははっきりしない・・・
 5億4000年前の「カンブリア紀の大爆発」にさかのぼる。カンブリア紀の大爆発では実にさまざまな動物の原型が登場したが、別の視点で見れば生存競争が激化した時代だったともいえる。現在までに分かっている限りでは、カンブリア紀の大爆発以前の「エディアカラ生物群」とよばれる6億年ほど前の生物には、積極的に自分で動いて餌を探す体制のものはあまりいなかったと考えられている。

しかし、カンブリア紀の大爆発では、甲羅や殻を発達させた動物が増える。と同時に、運動できる体のつくり、すなわち筋肉を発達させた動物も激増した。殻で天敵から身を守るか、あるいは積極的に餌を捕らえに行くか。すなわち「食うか食われるか」の世界が始まったのだ。

 そして、「攻撃は最大の防御」とばかりに、運動性能をさらに向上させ、獲物(あるいは天敵)をより鮮明に認識するために眼を発達させた動物が覇者になっていった。前回登場した「アノマロカリス」はその典型例である。カンブリア紀の大爆発は、眼という感覚器の発達によって加速されたと考える研究者もいるくらいである。

 現在もイカが生き残っているということは、イカの祖先もおそらくはカンブリア紀の大爆発の「攻撃は最大の防御」の流れに乗ったのだろう。ただし、カンブリア紀のイカの祖先の姿ははっきりしない。殻の化石は残っているものの、中身の化石がないのである。それはイカと近縁で、カンブリア紀以降に大繁栄するアンモナイトも同様である。世界中で大量に発掘されるが、殻から顔や体を出しているようなイラストはあくまで想像図であって、化石として残っているのは殻だけだ。

イカと近縁の生物、アンモナイトの一種の化石。殻のみが残されている。

「殻を体の内部にしまい込む」というイカの進化

 現在、私たちが食べているイカの系統的な位置は、大きい分類では「冠輪動物」であり、その中の「軟体動物」ということになる。軟体動物には貝類やナメクジなども含まれるが、その中でもイカは「頭足類」というかなり高度に進化したグループに入る。

 しかし、現在のイカには近縁のアンモナイトと違って殻がない。殻はどこにいってしまったのだろうか。実は、イカは殻を体内に隠し持っているのだ。紋甲イカなどを捌いているとプラスチック製のヤスリのような構造物が出てくる。物質としては炭酸カルシウムで、まさに貝殻そのものである。つまり、それは祖先の殻の名残である。インコなどのカルシウム源として与えている人も多いだろう。

 では、イカの祖先は殻をいつごろ内部にしまい込んだのかというと、約2億年前の中生代三畳紀に登場した「べレムナイト」からといわれている。保存状態のよいべレムナイトの一種の化石を見ると、ほとんど現在のイカと変わらないように見える。

 ともあれ、殻を内に秘めたイカの仲間の一部は、恐竜大絶滅の時代を生き抜いて、初登場から現在まで数億年にわたって生きのびている。中生代に大繁栄したにもかかわらず、6600万年前の白亜紀末に完全に絶滅してしまったアンモナイトとは対照的である。運もあるだろうが、やはり生存に有利なさまざまな形質を試行錯誤してきたことが大きいだろう。そのひとつが、イカのカメラ眼であるといえる。

巧みな眼、体色変化に墨吐き・・・ハイスペックなイカの体

 イカの発達したカメラ眼には、実はヒトのカメラ眼と異なったところがある。それは、ヒトの眼には光を受容できない「盲斑(もうはん)」という部分があるのに対して、イカの眼にはそれがないという違いである。ヒトの眼の視神経につながる神経線維は光が当たる側に配置されているために、どこかにその視神経の出口をつくらないと脳へ情報を伝達することができない。その出口が盲斑である。

 一方、イカの眼では神経線維は光を受容する裏側に配置されているために、視神経への出口をつくる必要がないのだ。つまりイカの眼には「死角」がない。一方、死角が生じうるヒトの眼は、工業製品として見れば明らかに進化上の設計ミスとしかいいようがないだろう。

他にも、イカは体表の色素胞を変化させて、まるで光学迷彩のように、体色や模様を瞬時に周囲と同化させることのできる種も多い。天敵から身を隠したり、獲物を狙ったりするときに大いに役立っていることだろう。

 そして、イカは天敵に対峙しても、ご存知のように墨を吐いて姿をくらますこともできる。その際には体内で水流を生み出して漏斗(「口」のように見えているところ)から噴出させるジェット推進の原理で高速移動する。しかも、その漏斗の向きによってどのような方向転換も可能だ。その高速運動を維持するためのえら呼吸も、本体の心臓のほかに、副次的な2つの心臓によって効率的に維持されている。

 さらにいうなら、イカの脳は、その体重比で見ると鳥類や哺乳類に次ぐ大きさがあり、高い学習能力があるとされる。

 これだけ書き並べるとイカのハイスペックぶりを痛感するほかない。だが、裏を返せば「殻による防御はしない」という選択を数億年前にしたことによる結果ともいえるかもしれない。

 

 

匿名希望

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