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2019年11月23日 (土)

殻の脱皮で体を大きくし生存競争に勝ったエビとカニ~生物進化を食べる(第4話)節足動物篇

気の合った仲間との食事では、たいてい和やかな談笑が続くものだが、時としてテーブルが静寂に包まれることがある。食卓に極上のカニ、中でも大きなズワイガニなどが丸ごと一匹出てきたときである。言うまでもなく殻から身を取り出すのに夢中になってしまって、喋ることを忘れてしまうのだ。身が美味しいから、面倒な殻があってもついつい頑張ってしまう。

 その殻の主成分は、「キチン」という化合物である。キチンは植物のセルロースと同じような構造の高分子で、セルロースと同様にヒトは消化吸収することはできない。生物が生産する化合物のうち、地球上で最も量が多いのは植物のセルロースだが、キチンはそれに次いで多いといわれている。セルロースとの大きな違いは、キチンには窒素原子(N)が含まれているという点である。

〇 キチンとセルロースの構造。

 キチンは、実はキノコなどの菌類や線虫にも含まれているのだが、産業的にはやはりエビ・カニなどの節足動物から採られることが多い。キチンを化学処理したキトサンは、金属の吸着や再生医療のための素材などとして幅広く応用されており、重要なバイオマスである。

〇 脱皮のリスクより急速な巨大化のメリットを選ぶ

 節足動物は大きな分類でいうと「脱皮動物」に属する。炭酸カルシウムの殻で防御する軟体動物などでは、自ら形成した殻に合わせて体の大きさが規定される。そして、一度つくった殻はそう簡単に壊すことはできないので、成長しようと思ったら少しずつ建て増しするほかない。

 しかし、大分類の名前のとおり、節足動物は脱皮できるのである。エビやカニはキチンを糖類から合成し、場合によっては自分自身で分解することもできる。つまり、成長に合わせて脱皮を行って外骨格を完全リニューアルすることができるのだ。

 脱皮中に襲われるリスクをあえて取っても、脱皮によって急速に巨大化できるということは生存競争では有利であっただろう。実際、第2話の棘皮動物篇で紹介した「アノマロカリス」の仲間は、カンブリア紀の大爆発で登場した動物の中でも桁違いに大きい。といっても1m弱程度だが、当時の他の動物の大半が数cm程度であることを考えれば、十分に巨大である。

〇 エビからヤドカリ、そしてカニへ

 そのような便利な化合物キチンが生物進化のどの段階で現れたのかは定かではない。ただ、アノマロカリスや三葉虫などのような節足動物がカンブリア紀初期に登場しているので、少なくとも6億年前くらいまでにはキチンは登場したものと想像される。

 ただし、注意しなければならないのは、殻の化石といっても、炭酸カルシウムが成分である場合もあるということだ。化石としてはこちらのほうが残りやすく、棘皮動物や軟体動物の化石の多くはこの炭酸カルシウム由来である。いかにも節足動物といった外観の三葉虫も、殻の表面は実は炭酸カルシウムで、その保存性のよさによって彫刻のような膨大な量の化石が見つかっているのである。

 一方、キチンは有機化合物であるために意外と分解しやすく、化石として残りにくい。よって、キチン質主体の外骨格を持ったエビやカニの祖先がいつの時代に登場したかは、まだはっきりしたことはいえないようだ。今のところ、もっと古いエビの化石は古生代のデボン紀の後期(約3億6000万年前)、カニの化石は中生代ジュラ紀初期(約1億8000万年前)の地層で見つかっている。

 化石の順番からすると、エビからカニへと進化したということになる。それはエビとカニの形態や遺伝子の類似性から調べてもほぼ確実であるとされている。

 現生の種で形態的な違いを見てみると、クルマエビのようないわゆる「エビ」の腹部が徐々に小さくなるとヤドカリとなる。さらに腹部が小さくなると、タラバガニのような「カニらしいヤドカリ」となり、ヤドカリから別の系統として進化すると「ふんどし」とよばれる腹部を持つ、ズワイガニような「カニらしいカニ」となる。

 

 

 

津田大照

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