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2019年11月13日 (水)

遺伝子発現の制御機能を持つ「非コードRNA」の存在


以下、日本の進化生物学舎の長谷川政美氏の「進化の歴史」リンクより紹介。
既知の遺伝子と相同性が見られないとのことから、見過ごされてきたジャンクDNA。2005年頃から進む研究では、それらのDNAにも負の自然選択が働いており、「非コードRNA」(アミノ酸配列をコードしていないRNA)と呼ばれる、遺伝子発現の機能を持っている可能性が浮上してきた。

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第22話
ジャンクDNA
文と写真 長谷川政美

◎ジャンクDNAはがらくたか?
21世紀に入り、多くの生物のゲノムの塩基配列が解読されるようになってきた。その結果分かったことは、ゲノムのなかでたんぱく質のアミノ酸配列をコードしているのはごくわずかの部分に過ぎないということであった。

ヒトのゲノムはおよそ30億塩基対から成るが、たんぱく質をコードする遺伝子の数は22,000個程度だと推定されている。1個の遺伝子のアミノ酸コード領域の長さが3,000塩基対(1,000アミノ酸)だとすると、ゲノム全体でアミノ酸コード領域が占める割合は、わずか2.2%に過ぎないのだ。残りの部分は何をしているのだろうか?

最初これらの大部分は「ジャンクDNA(がらくたDNA)」と呼ばれた。ところが、ヒトのゲノムを50から100塩基程度の短い断片ごとにマウスのゲノムと比較してみると、およそ5%の断片で配列が比較的よく保存されていることが分かった。つまりアミノ酸コード領域以外のジャンクDNAと呼ばれた部分でも、5%近くのDNA配列で負の選択圧が働いているようなのだ。

突然変異はゲノム全体でほぼ均等に起るので、配列が保存されているということは、それらのDNA配列にも機能的な制約があって、負の自然選択が働いていることを意味する。このことはこれらの配列が機能をもっていることを示唆する。第8話で述べたように、重要な遺伝子ほど突然変異全体のうちで中立的なものの割合が少なく、それだけ変わりにくいのだ。

たんぱく質をコードする遺伝子の数は、ヒトで22,000個程度と推定されていると述べたが、マウスもヒトと同じ程度の数の遺伝子をもっている。一方、ショウジョウバエでは14,000個、酵母で6,000個、大腸菌で4,000個とされている。ヒトのもっている遺伝子の数は、単細胞の大腸菌のせいぜい6倍程度でしかないのだ。さらに多細胞動物のなかでもわずか1,000個ほどの細胞しかもたないカエノラブディティス・エレガンス
Caenorhabditis
elegansという線虫は、ヒトとほとんど変わらない20,200個の遺伝子をもっている。

これらの生物の複雑性の違いを定量的に測ることは難しいが、ヒトでは予想されていたよりも少ない数の遺伝子で複雑な体制を作り上げているのだ。このことは、複雑な体制を作り上げるためには、新しい遺伝子を作るよりも、既存の遺伝子を使い方でさまざまに組み合わせる制御機構が重要であることを示唆する。

ジャンクDNAと呼ばれた配列にもかなりの部分に負の自然選択が働いていることから、それらの部分が遺伝子発現の制御に関わっているものと考えられる。
また、生物種間の違いは、遺伝子の違いによるよりも、同じような遺伝子が違ったパターンで使われることによることが多いと考えられる。わずか100個の遺伝子のスイッチのオン・オフでも、2100≒1.3
x
1030という膨大な数のパターンが可能なのである。

受精卵が発生の過程で多様な組織の細胞に分化するときだけでなく、種分化により多様な種が生み出される際にも、このような遺伝子発現スイッチのオン・オフのパターンの多様性が重要な役割を果たしているのではなかろうか。

◎非コードRNA
最近、これまでアミノ酸配列をコードしないジャンクDNAと呼ばれていたDNA配列のなかに機能的に重要な役割を果たしている配列の存在が浮かび上がってきた。

「非コードRNA」をコードするDNAである。「非コード」とはアミノ酸配列をコードしていないという意味である。もちろん、以前からリボソームRNAや転移RNAなどをコードするDNAや、転写開始領域(プロモーター)や調節領域(エンハンサー、転写を高める)などたんぱく質をコードする遺伝子の発現を調節するDNA領域は知られていた。しかし、新たに見つかった非コードRNAも遺伝子発現の制御に関与していることが分かってきたのである。ある種の非コードRNAは、ヒストンに修飾を付加することによって、遺伝子発現の制御に関与する。

先ほど機能的に重要な役割を果たしている遺伝子の塩基配列は、例えばマウスとヒトの間で保存されていると述べた。ところが、機能的に重要な役割を果たしていると考えられる非コードRNAのなかには、配列があまり保存的でないものも多い。このことから、これらの配列は重要でない、とは必ずしも言えない。むしろこれらがそれぞれの種で特異的な働きをしている可能性もあるのだ。

2005年に理化学研究所のグループが、マウスの転写産物について片っ端から配列決定を行なったところ、なんと23,000種類以上の非コードRNAが同定されたという。たんぱく質をコードする遺伝子の数と同程度なのだ。これらのRNAの大部分の機能はまだ不明であるが、遺伝子発現の制御に関与している多数の非コードRNAの存在が明らかになっている。機能が不明だったためにジャンクDNAと呼ばれた領域の多くで、何らかの機能が見いだされつつある。

さらに2012年には、ヒトゲノムのおよそ3/4の配列が、何らかの細胞で何らかの時期にRNAに転写されていることが明らかになった。ヒトの遺伝的病気の原因となるゲノム領域が特定された領域のおよそ90%は、いわゆるジャンクDNAのなかにあったという。
日進月歩のこの分野の現況を知りたいひとは、最近出版されたネッサー・キャリーの『ジャンクDNA』(中山潤一訳、丸善出版、2016年)や小林武彦さんの『DNAの98%は謎』(講談社ブルーバックス、2017年)を参照してほしい。

(以上)
※続きは、
リンク

 

 

ぴぴ 

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