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2019年11月12日 (火)

ヌタウナギからサメへ、太古の海が育んだ魚類の進化(1)

 私たちが日ごろ食べているもののほとんどは生物である。そして、多くの食材の直系の祖先は私たち人類より先に地球上に現れている。なぜヒトは「その食材」を食べることになったのか。その疑問を解くカギは、この地球上でヒトと生物がたどった進化にある。ふだん何気なく食べているさまざまな食材を、これまでにない「進化の視点」で追っていく。それぞれの食材に隠された生物進化のドラマとは・・・。

大平万里 生物進化を食べる(第5話)魚類篇
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以前、ある知り合いから「ウナギを家でご馳走する」と誘われたことがある。大好物なので喜んで知人宅に向かったが、出てきたのはこんがりと焼かれた巨大なうなぎの肝のようなものだった。口に入れると、カリッとした歯触りに続いて少しエビに似た強烈な滋味が口に広がって、非常に美味しかった。

 しかし、少なくとも私の想定した「ウナギ」ではないことは明らかであった。

 その正体は、クロヌタウナギ。「ウナギ」といっても、土用の丑の日に大量消費されるあのウナギとは分類上まったく違う生物である。近縁のキタクロヌタウナギは、日本海側では「棒アナゴ」として売っていることもある。滋養強壮食として話題に上るヤツメウナギも、このクロヌタウナギに近い仲間だ。


○脊椎動物の「ご先祖様」、魚類にあり

 クロヌタウナギは一見、細長い形をしているため「ウナギ」のように見えるが、まず顎(あご)がない。 さらには硬い骨もなく、軟骨でできた「脊椎(せきつい)」と、その原型にあたる「脊索(せきさく)」の構造があるのみである。つまりは脊椎動物の元祖といえる生物なのだ。

 さて、こうした顎のない原始的な魚は、いつごろ出現したのだろうか。硬い骨がないため、はっきりした全身骨格の化石がなかなか見つからないので、分からないことも多い。だが、「歯らしき部分」から、このクロヌタウナギに近い生物が古生代カンブリア紀(約5億年前)にはすでにいたであろうことが分かっている。

 その名は「コノドント」。長らく何の生物の化石か謎だったが、どうやら顎のない原始的な魚類の化石であるらしいと分かってきた。岐阜県高山市で見つかったコノドントの化石は、約4億5000万年前の古生代オルドビス紀のもので、国内最古の化石である。

 ともあれ、カンブリア紀の大爆発の少し後に、すでにクロヌタウナギのような生物がいたというのは驚きである。なんせ、そこから私たち脊椎動物は進化してきたのである。ヤツメウナギやクロヌタウナギを食べる機会があれば、ほぼ太古の姿そのままの「脊椎動物のご先祖様」であることに想いを馳せて味わいたいところだ。

○サメの「しぶとさ」は生物進化でも特異

 さて、少し進化の針を進めよう。次に原始的な魚の名残をとどめているのはサメである。「サメなんて食べたことない」という方もいるかもしれないが、かまぼこやフカヒレ、さらにはコンドロイチン硫酸などの健康食品の材料として口にしているかもしれない。東北の魚市場に行けば、たいていサメの肉は売っている。

「顎」を意味する『JAWS』という映画もあるくらい、サメは立派な顎を持っている。そんなサメの何が原始的かといえば、クロヌタウナギ同様「硬い骨」がない点である。サメは「軟骨魚類」とよばれる仲間だ。フカヒレも軟骨であるが故に、あの食感が珍重されているのである。

 また、「浮き袋」がない。浮き袋は多くの魚類にとって、水中での浮力を調節する重要な器官であるが、サメにはないのだ。では、サメはどうやって浮力を調節しているかというと、肝臓などに脂質を蓄積して体の密度を低くすることで対処している。そのため、サメなどの肝臓からは、化粧品に使われるスクアレンなどの油脂成分が抽出される。

 また、表皮は鱗の代わりに、歯と同じ成分でできた「皮歯(ひし)」とよばれる硬い構造で覆われている。いわゆる「サメ肌」だ。これは古生代に絶滅してしまった甲冑魚などの特徴を残したものと考えられている。

 サメの祖先とされる「ドリオドゥス」は、約4億年前の古生代デボン紀にはすでに登場している。そして、その後ずっと地球の海に生きつづけ、約1億年前の中生代白亜紀には現生のサメと同じような姿形の種が登場する。少なくとも中生代以降1億年以上にわたって、サメは実質的に海の覇権を握りつづけているのだ。

 通常、わが世を謳歌した生物種ほど、ある時期に絶滅してしまうものだが、サメのしぶとさは生物進化の中ではかなり特異な例なのである。

○意外なところにサメの欠点

 進化の勝者ともいえるサメにも、実はある欠点がある。後退できないことだ。

 映画のモデルにもなったホホジロザメが獲物を捕らえる映像などを見ると、高速で迫ってきたり、海上を大ジャンプしたりして、その迫力ある運動能力に圧倒される。しかし、いったん獲物を捕り損ねると、すぐに方向転換できないために大回りで旋回して進行方向を定めるほかない。

 実際、海中を泳いでいるサメに触れることは比較的容易で、安全なサメであれば背びれにつかまっていっしょに泳いだりもできる。サメの胸びれは遊泳時の揚力をつくることにほぼ使われ、急な方向転換に使えるほど自由に動かせないのだ。複雑な動きを瞬発的にコントロールするための足場、すなわち「支点・力点」が軟骨では頼りないためだろう。

 さらなる複雑な動きを獲得するには、筋肉の支点・力点を支持する強固な構造が必要である。それには軟骨を硬化させることが有効であったのだろう。

 こうして、進化してきたのが、硬骨魚である。俊敏さを獲得した硬骨魚は、私たちが水中で触ろうとすればサッと逃げられ、素手で捕まえるのはなかなか難しい。

 

 

 
津田大照

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