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2019年12月25日 (水)

巨大ウイルスが生物進化に深く関わっていた

生物はウイルスが進化させた」(ブルーバックス)の著者の記事
真核生物の誕生と進化に、ウイルスが関与してきた、という主張


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◇史上最も生物に近いウイルス!?
本書では、巨大ウイルスの進化の過程におけるきわめて興味深い事例として、「アミノアシルtRNA合成酵素」遺伝子に関する話を展開した。
この遺伝子もまた、タンパク質の合成に必須であり、それまでのウイルスはもっていなかったものだ。
ところが、2003年に発見されたミミウイルスで4種類、2011年に発見されたメガウイルスで7種類のアミノアシルtRNA合成酵素が見つかった。

(中略)

驚くべきことに、本書の原稿が完成し、すでに刊行を待つばかりとなっていた4月の上旬、アメリカの研究グループによる刺激的な論文が科学誌『サイエンス』に掲載されたことで、本書の内容は刊行早々、ちょっとばかり古びることになってしまった。
その論文は、「メタゲノミクス」というまるでブルドーザーのように一定範囲に存在するゲノムを一網打尽に解析する手法により、未知の巨大ウイルスである「クロスニューウイルス(Klosneuvirus)」の存在を明らかにしたものだった。

驚くべきことに、そのゲノムサイズは、現時点で最大を誇るパンドラウイルスのそれ(248万塩基対)には届かぬものの、ミミウイルス(118万塩基対)を大きく上回る157万塩基対もあることが推定された。さらに驚くべきことに、クロスニューウイルスのゲノムには、なんとくだんのアミノアシルtRNA合成酵素遺伝子が「19種類も!」存在していたのである。しかもその19種類は、それぞれ異なる19種類のアミノ酸をtRNAに転移する酵素であった。

生物がタンパク質をつくるために使用するアミノ酸は20種類しかない。
これはすなわち、あと1種類あれば、生物のタンパク質を構成する全20種類のアミノ酸に対応できる体制が整うということだ。
この論文では、クロスニューウイルスとともに、よく似た3種類のウイルス、「カトウイルス(Catovirus)」、「ホコウイルス(Hokovirus)」、「インディウイルス(Indivirus)」の存在も明らかにされ、それらもまた、多くのアミノアシルtRNA合成酵素遺伝子を持っていた。

さらには、クロスニューウイルスが唯一もっていなかった最後の1種類のアミノアシルtRNA合成酵素遺伝子を、カトウイルスがきちんともっていることもわかったのだ。
すなわち、この新しい巨大ウイルスの一群全体で見ると、生物のタンパク質を構成する20種類のアミノ酸に対応できる体制が、きっちりと整っていたのである!
なんということだろう。

巨大ウイルスは、生物が使う20種類のアミノ酸に対応できるアミノアシルtRNA合成酵素遺伝子を、すでに手に入れていたのだ。
しかもそれだけでなく、クロスニューウイルスは25種類ものtRNA遺伝子と、20種類以上もの翻訳関連遺伝子(翻訳開始因子、翻訳伸長因子、翻訳終結因子など)も備えていた。
これだけ多くの翻訳関連遺伝子は、ミミウイルスにもパンドラウイルスにも見られておらず、クロスニューウイルスは、現時点で史上最も生物に近いウイルスであるといえるかもしれない。

◇生物の進化にウイルスは欠かせなかった?
巨大ウイルスの可能性がさらに広がったことに、私はかつてないほどの興奮を味わった。
それは、まさに常識外れの巨大さを誇るパンドラウイルス発見の報に触れたとき以上のものだった。

(中略)

もちろん、ウイルス「だけ」が生物を進化させてきたわけでは決してない。生物が生物として存在し、これほど多様な発展を遂げてきたしくみのごく一部に、ウイルスによる作用があったというだけなので、大袈裟といえば大袈裟なタイトルだ。
しかしながら、その「ごく一部」の中にとてつもなく大きな意味が隠れていると、私は考えている。
それこそが「真核生物の誕生・進化」という一大イベントである。
真核生物とは、生物にとって最も重要な遺伝子の本体であるDNAを格納する細胞核をもつ生物で、この真核生物が誕生したことで、現在のような生物の発展が可能となった。その真核生物の誕生と進化に、ウイルスが関与してきたのである。

◇深まる謎
本書でいわんとしていることの中で、最も重要な主張は二つある。
一つは、生物の細胞は、ウイルス(作中では「ヴァイロセル」)にとって増殖のための「土台」にすぎないということであり、
いま一つは、真核生物の細胞核は、ウイルス(特に巨大ウイルスの祖先を想定して)の増殖のための「ウイルス工場」が進化したものだ、ということである。

前者は、あくまでも「目線」の問題であって、ウイルス(ヴァイロセル)の目線に立てばそのように見えるが、細胞の目線に立てばまた違った現実が見える。
しかし後者は、続々と積み上げられつつある巨大ウイルスに関するいくつかの研究が、そうであったことを示唆するデータを出し続けている。

(中略)

論文の著者たちがいうように、クロスニューウイルスがもつ19種類ものアミノアシルtRNA合成酵素遺伝子は、その祖先がかつては独立した細胞であって、現存する三つのドメイン(バクテリア、アーキア、真核生物)に加え、「第4のドメイン」を形成していた可能性を示唆しているのかもしれない。

(中略)

してみると、クロスニューウイルスが、タンパク質を合成する「翻訳システム」に関する多くの翻訳関連遺伝子をもっているということは、彼らは比較的最近、生物から巨大ウイルスへと進化したということなのだろうか。

論文の著者により構築されたアミノアシルtRNA合成酵素遺伝子の分子系統樹は、クロスニューウイルスの“根”が、真核生物の中の深いところにあることを示唆している。
ということは、比較的最近とはいっても、それは約19億年前に真核生物が誕生した直後か、または真核生物の長い進化の中でも比較的初期の段階だったのか。
そして、そもそもクロスニューウイルスの祖先は「真核生物だった」のか、それともやはり第4のドメインに分類すべき、すでにこの世に存在しない生物だったのか
考えれば考えるほど疑問は尽きず、最新刊を書き上げたばかりだというのに、さらなる謎の探究にうずうずしている自分がいる。

(後略)

 

大森久蔵

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