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2020年3月24日 (火)

隕石衝突後の環境激変の証拠を発見 ;白亜紀最末期の生物大量絶滅は大規模酸性雨により引き起こされた?

【研究成果のポイント】
1.大型放射光施設SPring-8の放射光を用いた微量元素マッピングを用い、約6600万年前の白亜紀-古第三紀(K-Pg)境界層に、銀・銅に富む微粒子が含まれていることを世界で初めて明らかにしました。
2.これらの微粒子の存在は、この時代に大規模な酸性雨が降ったことを示しています。
3.K-Pg境界における恐竜を含む生物の大量絶滅は、巨大隕石の衝突に伴う環境の激変(太陽光遮断、温暖化、酸性雨など)が引き金となっています。しかしながら、どのような激変が実際に起こったのかは、これまで不明でした。

(中略)

白亜紀最末期(約6600万年前)に直径10km程度の巨大隕石が衝突し、生物大量絶滅につながったことは、これまでの様々な研究により、広く受け入れられています。しかし、生物大量絶滅を引き起こした、隕石衝突直後の環境激変がどのようなものであったかに関しては、未だに不明な点が多く残されています。本研究では、K-Pg境界層試料に対して、大型放射光施設SPring-8注1の放射光(BL37XU)を用いたマイクロメートルレベルでの微量元素マッピングを適用し、酸性雨によって形成されたと考えられる銀・銅に富む微粒子を発見しました。これまでも、K-Pg境界の隕石衝突直後に大規模な酸性雨が発生したことは示唆されてきましたが、その決定的な証拠は得られていませんでした。このような大規模な酸性雨は、K-Pg境界における生物大量絶滅を引き起こした原因となった可能性があります。

本研究成果は2020年2月5日付「Geological Society of America Bulletin」でオンライン公開されました。

【研究の背景】
地球に生命が誕生してから現在に至るまでの間には、短期間に多くの生物種が絶滅する事件が、繰り返し起きています。このような生物大量絶滅の中でも、特に規模の大きな5つの事件はビッグファイブと呼ばれています。ビッグファイブの最後の一つが起きた白亜紀-古第三紀(K-Pg)境界(約6600万年前)では、恐竜やアンモナイトを含む70%程度の生物種が絶滅しました。このK-Pg境界の生物大量絶滅は、メキシコのユカタン半島に直径約10kmの巨大隕石が衝突したことが引き金となっています。巨大隕石の落下直後には、(1) 太陽光遮断、(2) 酸性雨、(3) 温暖化、(4) 紫外線透過といった環境変動が起きたのではないかと言われています参考文献)。しかし、これらの環境変動のうちどれが実際に起こり、どれが最も生物相に影響を与えたのか定かではありませんでした。それは、これらの現象は極めて短時間で起こる事象であり、地層中にその様子が記録されることは難しいと考えられてきたためです。

巨大隕石衝突仮説は、K-Pg境界層に、イリジウムをはじめとする金属鉄に取り込まれやすい元素(親鉄元素注2)が高濃度に存在することをもとに提案されました。親鉄元素は、地球の表面付近にある岩石にはほとんど含まれていませんが、隕石には多く含まれています。従って、K-Pg境界層に高濃度で存在する親鉄元素は、隕石由来の物質が地表に広くばらまかれたことを意味しています。

一方、K-Pg境界層には親鉄元素だけでなく、銅、亜鉛、銀、鉛といった硫化鉱物に取り込まれやすい元素(親銅元素注3)も高濃度に含まれています。しかし、K-Pg境界層の親銅元素は、隕石由来物質中に比べて1-2桁程度も高濃度であり、K-Pg境界層の親銅元素の濃集には落下隕石以外にも原因があるはずです。そこで本研究では、K-Pg境界層の親銅元素に着目し、生物大量絶滅を引き起こした環境激変の詳細を明らかにすることを試みました。

【研究内容と成果】
本研究では、イリジウムをはじめとする親鉄元素が高濃度で含まれる、デンマーク王国にある海岸沿いの断崖Stevns Klintに露出するK-Pg境界層の試料に対して、大型放射光施設SPring-8における放射光を利用したマイクロメートルスケールでの微量元素マッピング分析を行いました。その結果、K-Pg境界層には、銀・銅に富む微粒子が、それぞれ独立に存在することが明らかとなりました(図1)。

銀や銅は黄鉄鉱(FeS2)などの硫化鉱物に取り込まれやすい親銅元素であり、K-Pg境界層でも、これらの親銅元素は黄鉄鉱粒子に含まれています。一方で、黄鉄鉱とは別個に粒子を形成している銀や銅は、酸に溶けやすい元素であることから、これらの粒子の存在は、大規模酸性雨によって大陸から溶け出した銀や銅が大量に海洋に流れ込んだことを意味しています。さらに、Stevns KlintのK-Pg境界層においては、銀や銅の濃度がイリジウム濃度と高い相関関係を持つことから、銀や銅の濃集は、イリジウムの濃集(隕石衝突)と同時期だったことが分かりました。衝突によって地表にばらまかれた隕石由来のイリジウムは、ほとんどは固体微粒子に存在しているため、海洋底に沈降して堆積物に取り込まれることにより、比較的短期間に海洋から除去されたはずです。同様に、隕石衝突により、地表や破砕岩石から放出された三酸化硫黄や一酸化窒素が、隕石衝突後の短時間で大規模酸性雨をもたらしたと考えられ、これにより、銀や銅が海洋に大量供給され、その環境激変が生物大量絶滅を招いた可能性が示されました(図2)。

【今後の展開】
Stevns Klint以外のK-Pg境界層試料にも、本研究で適用した化学分析を行うことで、K-Pg境界で発生した酸性雨の規模や継続時間を定量的に明らかにすることができます。加えて、K-Pg境界以外で起こった生物大量絶滅にも親銅元素の異常濃縮が見出されており、これらの大量絶滅と巨大隕石衝突との関連についての議論が進むことが期待されます。酸性雨は巨大隕石衝突でのみ起こるわけではなく、大規模火山活動、さらに、人類の排出する大気汚染物質からも生じます。本研究と同様の手法を用いて、これらの事象の証拠を地層中に見出すことは、そのような現象の影響評価をするための基礎的知見を得ることにもつながります。

 

土偶

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