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2020年4月30日 (木)

昆虫の進化戦略(昆虫が多様に進化し、繁栄しているのはなぜか

昆虫は現在の地球上で、繁栄を極めており、500万種以上の種類があると言われている。ちなみに現在のほ乳類は約4000種である。
何故昆虫はこれほどまでに繁栄し得たのか。

まず昆虫が小さな体を獲得した点があげられる。昆虫が小型となったのは、陸上の昆虫が脊椎動物系と異なり、呼吸器官として気門を用いていることに由来する。
脊椎動物はエラや肺で吸収した酸素を血管によって全身の細胞にいきわたらせるという方式であるのに対し、気門は体に分布する10対くらいの気門から、空気を取り入れ、気管と呼ばれる太いパイプから、より細いパイプで必要箇所に送り届ける方式である。この方式は比較的単純なつくりであるという点で優位性を持つが、逆に長い距離の運搬が困難である。つまり空気を送り届けられる範囲でしか大きくなれないという物理的限界を持つ。だから酸素濃度が上昇した時期は「ムカシトンボ」など、比較的大型の昆虫も存在したが、現在は哺乳類と比べると著しく小型である。

更に昆虫は小型化することで、同一環境内で互いに小さなニッチを分け合う事を可能にした。例えば植物食の昆虫の場合、一つの植物を数多くのニッチに分け合うことができる。例えば葉を食べる、茎に穴を開ける、葉の裏側に回り込む、花のつぼみやさやをかじる、樹皮の内側に潜む、幹の中心部まで穴を掘る、地下の根に棲みつく等々。一つの植物だけでも多様な利用形態を生み出し、多様化することができる。そういった理由から昆虫は進化するほど小型化するという傾向がある。

昆虫が豊かな多様性を獲得したもう一つの理由は、「飛べる」ことである。最初に空を飛んだ生物は昆虫である。最初に翅を持った昆虫は1億5000万年の間、飛翔できる唯一の動物として捕食者から逃れ、多様な場所へと拡散できるという大きな強みを持っていた。その後や鳥類やコウモリが現れた後も、昆虫は空から締め出されることはなく、むしろそれが「淘汰圧」として働くことで、多様な適応を果たしていった。

しかしそれらも含めて昆虫の多様性を可能にした最も大きな理由がある。変異スピードの速さである。その象徴ともいえるのが、昆虫の成長の仕組みである。蝶、ハチ、ハエ、蚊、アリ、カブトムシ、ノミにいたるまで、現在の昆虫の85%は完全変態する(卵→幼虫→蛹→成虫)。不完全変態(蛹を経ないもの、バッタ、トンボ、セミなど)も含めれば、ほぼすべての昆虫が変態を行う。幼虫の期間と成虫の期間を比較すると、体つきも、食べ物も、種によっては生息域も全く異なる。
この完全変態が登場したのは史上最大の絶滅といわれるベルム期末(2億5000万年前)である。ベルム期末には、海生生物のうち最大96%、全ての生物種で見ても90%から95%が絶滅したといわれる。原因は火山爆発やプランクトンの激増に伴う海洋無酸素化など諸説あるが、いずれにせよ、環境の超激変期であったことは間違いない。この激変に対して、古い有翅昆虫の多くは滅び、完全変態の機能を獲得した昆虫類が生き残った。

では、完全変態を行う蛹の時期に昆虫は何をしているのか?蛹の中を観察すると、変態期の蛹はドロドロのスープ状になっている。生存上最低必要な呼吸や一部の神経系を除き、幼虫時代に用いられていた細胞は自死(アトポーシス)し、分解される。それに代えて、成虫時代に必要な器官のもととなる(外骨格や翅や足や内臓など)幹細胞が休眠状態から作動し、成虫の身体を作り上げるのである。つまり昆虫は幹細胞からもう一度生まれ変わるのである。ドロドロに溶けた細胞はその際の栄養として使われる。昆虫の幼虫はほとんど動かずひたすら食べ、栄養を蓄積する。逆に成虫は全く食べないか、ほとんど食べない。幼虫時代にひたすら栄養を蓄積し、この変態期にほとんどの栄養を使うのである。
その分逆に成虫は摂食するという制約から逃れ、交尾(生殖)と拡散に専念する。言葉を変えれば成虫は変異に専念しているともいえるのだ。更に未解明だが、環境の激変期であることから、蛹期に作動する幹細胞はこの2度目の誕生期に、遺伝子の発現のさせ方を変える=変異している可能性もある。

昆虫は気門や神経系(分散神経系)など比較的単純な構造で形成されている。これ自体が変異のしやすさを生み出していることに加えて、この「生まれ変わる」という生態がさらに変異を促進させたと考えらえる。
つまり昆虫の繁栄の究極の理由は、変異のしやすさと、それを促進する機能にあると考えられるのだ。
(参考「昆虫は最強の生物である」スコット・リチャード・ショー)

 

北村浩司

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